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第五十二話〜悪霊退散

「どうも」
 そうか九九言った俺だったが内心はものすごく焦っていた。ついに見つかってしまった、このままではまずいと。だがしかし運がいいことに鬼はかなりの傷を負っており、その命も風前の灯のようだ。
「殺して……やる」
 そう搾り出すように吐いた言葉は、もはや呪いにしか聞こえない。もはやこいつは俺を殺すという怨念で動いているに違いない。しかし、何故かこの怨霊は持っていたはずの武器を持っておらず、手ぶらの状態だった。きっと海人さんがどうにかしてくれたんだ。
「武器もないのにどうやっておれを殺すんだ?」
 俺は笑いながら鬼に問い掛ける。すると鬼は不気味に笑みを浮かべたかと思うと、背中に手を伸ばした。
「残念でした」
 ニヤニヤと笑う鬼の手元には銃が握られていた。海人さん、約束と違う。どうにかしてくれるんじゃなかったのか。
「さて、死んでもらおうかな」
 そういうと怨霊は嬉しそうに人差し指に力を込める。俺は腰のナイフに急いで手を伸ばしながら銃口から体をそらすために思い切り体をひねる。だめだ、間に合わない。俺が体をひねりきり、投擲の体制に入った頃にはすでに俺は怨霊の餌食になっているだろう。
「それはこっちの台詞だ、ゴミが!」
 俺の隣から聞こえたいきなりの罵声に、鬼の驚きの声をあげたが、次いで聞こえたのは渇いた雨を切り裂く大きな破裂音。銃弾が発射された音だった。流石に俺も死んだかと思ったが、いつまで経ってもどこからも血は出ないし、痛みも無い。よく見ると、もくもくと白い煙を吐いていたのは鬼の銃ではなく、隣に居た大西の銃だった。
「護身用に持ってみるものだな」
 そういいながら、白煙を上げる銃を掲げながら俺ににっこりと笑いかける。
「ちくしょおぉぉ」
 ハウリングしたスピーカのような耳障りな大きな叫び声と共に鬼は立ち上がり、銃を構えて大西を狙おうとするが、大西の動き方が早かった。炸裂音とともに鬼の肘から血が噴き出る。
「がっ」
 鬼は片ひざをついて顔をゆがめるが、即座に逆の肘にも鉛の玉を打ちこまれ、鬼は身動きがとなくななっていた。そこに続けて二発の弾丸が放たれる。四肢を撃たれ、バランスの取れなくなった鬼は再び倒れ、今度はちょうど大西に平伏すような形になる。平伏したというのに大西は手を止めなかった。何度も何度も痛めつける。その光景を見て、父が死んだあの日の事がフラッシュバックする。絶対にこいつがあの時の銃の男だ。こんな残虐な人のなぶり方をするのは、あの時の男しかいない。そう思った俺は、腰のナイフを抜き取りあの時の男にゆっくりと近づくが、途中で思い止まる。まだだ、まだなんだ。こいつはもっと苦しめて殺さないといけない。カチカチと音を立てて、大西の銃が鉛の弾を吐かなくなり、大西はつまらなそうに銃を腰にしまう。
「お前……」
 しぶとい奴だ。肢体が機能を失い、痛め付けられたのに死んでいない。まあ大西が死なない程度に痛めつけたという可能性もあるが。しかし、地面を這いながらこちらに向かってくる姿はやはり怨霊だ。這いながら大西の足に取り付いたかと思うと、特になにもせずに笑ってる。
「触るな、ゴミが」
 お前が一番ゴミだろうというツッコミは飲み込んでその光景を傍観する。大西は取り付いた鬼の体を何度も蹴り、笑っていた。対する鬼も蹴られながらも笑っていた。そんな光景を見ていても不毛だと悟った俺は、この光景に終止符を打つことにした。先ほど腰から抜いたままにしていたナイフの柄の部分を滑らないように服でしっかりと拭き取る。次にナイフを服で掴んだまま大西のところに行く。
「終わりにしたらどうだ」
 そういってナイフを渡す。
「それもそうだな」
 大西はしっかりとナイフを握り、そのまま鬼の背中に突き刺す。さすがの鬼も今のには耐えられなかったようでぴくりとも動かなくなる。
「やったの……か?」
 大西はつかまれていた足をゆっくりと抜いて、その足で鬼の生死を確認するために足で鬼を小突いた。

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