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第五十一話〜プレゼント貰った

 雨の音で目を覚ます。いつの間にか俺は寝ていたらしい。外は薄暗く、今は朝なのか、それとも実は昼なのかわからない。とりあえずまだ救助は来ていないみたいだ。
「おはよう」
 そう声をかけてきたのは昨日キスした詩織で、今日は俺の上着ををしっかりと着て体を隠してた。困ったことにまともに顔が見れない。キスだキスだといっても緒戦はお凸にしただけだというだけなのにこんなに恥ずかしいものなのか……それならば唇にしたらきっと俺は水を入れすぎた水風船のように破裂してしまうだろう。しかし、何故そんなにしっかりと俺の上着を着ているのだろうかと近くを見回すと、服が干してあった。やはりぬれたままの服では気持ちが悪かったのだろう。自分で乾かしたのか。しかし、こんな天候で乾くかは怪しい。それに水がきちんと絞られていないのでポタポタと水が滴っていた。俺はひとつ息を吐き、無言でかけてある服を取り、かたく絞る。思ったとおりに水が沢山出てくる。いくらなんでも非力過ぎるだろ……。だが考えれば、あの年齢なら妥当なのかもしれない。
「ん?」
 俺がもう少しかたく絞ろうと、服の持つ位置を変えると、ふとなにかが手に当たった。それは小さいものだったが一応確認のためポケットを漁る。壊したら大変だ。
「香水?」
 出て来たのは何やら液体の入った小瓶で、甘い香りのしそうな色だ。多分香水かなにかだろう。だがあの年で香水とは今の子はわからん。
「詩織」
「なに?」
 俺は小瓶を掲げたまま詩織を呼ぶ。一応、確認をしたほうがよさそうだ。
「これなんだ?」
「香水。いらないからあげる。無くさないでよ」
 そうあっさりという詩織はもう香水には興味は無いようで、俺は香水を貰ってしまった。別に使わないし、捨てようかと思ったが、無くさないでと言われたならしかたないと自分のポケットに入れる。しかし女性からプレゼントを貰うなんていつ振りだろう。
 特にやること見つからず無言で海人さんを待ちながら雨音に耳を傾けていると、雨のザアザアという音とは違う砂を踏む音が聞こえた気がした。しかも、そいつは段々と近づいて来ている。この足音、間違いなく海人さんだ。そう思って俺は居場所を叫ぶ。
「海人さーん」
 出来るだけ大きな声で海人さんを誘導する。やはり特殊部隊の隊長はすごい人なんだと実感した瞬間だった。
「ひひひ、そこか」
 海人さんの足音だと思っていた音の方向から突如、不気味な笑い声が聞こえた。瞬間的にまずいと思った。なぜなら、海人さんはこんな笑い方はしない。ということは、この笑い声の正体はあいつということになる。特殊部隊の隊長もたいしたことはなかった。
「どーこーかーなー」
 声はすぐ近くで聞こえた。俺達は息を殺して、じっと通り過ぎるのを待ったが、現実というやつは残酷なもので、偶然にもこちらが一つ大きな物音を立ててしまう。その物音というのは一つのくしゃみなわけだが。
「すまない」
 犯人はすまなさそうに身を縮める。畜生、いつまでも邪魔な奴だ。
「見つけた」
 大西のくしゃみよって奴に見つかってしまった。やっぱり鬼は笑顔だった。

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