第三十六話〜ひざまくら
暗い世界。柔らかい感触。多分ひざ枕だろう。しかし、今思えば、死後の世界にひざ枕なんて代物があるのだろうか?
ないだろうな……。ならこれは?
「雄介! 雄介!」
遠くで聞こえる声に思う。五月蝿い。僕はたかしだ。雄介じゃない。
「雄介! 雄介!」
俺は雄介じゃないんだ。
「五月蝿いって言ってるだろ」
何度でも呼ぶので声を上げて怒った。
「雄介……」
安心したような声。
「だから僕はたか……」
目の前に広がるのはまさにジャングル。
はて?この光景は見たことがあるな。
「いつまで寝てるの」
上空から声が飛ぶ。
上を見上げると、美しい黒髪の少女がいた。
どういうことだ?
「ずいぶんとうなされてた見たいだけど悪い夢でも見たの?」
そうか、あれは夢か……。と、言うことは、たかしを殺したのは直接的ではないしろ雄介なわけで、俺は雄介で、たかしではないわけで。つまり俺がたかしを死に追いやったと言うわけだ。
確かに、隆を殺しの他のハあの黒い車だったがその原因を作ったのは俺だ……なんということだ。
「おはよう。詩織」
俺はひざ枕から離れる。少し名残惜しい。
「頭をぶつけて動かないから死んだかと思ったわ」
頭?
頭をさすると後頭部に大きなこぶが出来ている。
そうか、転んで頭を打ったショックで気を失っていたのか。
つまりあれは夢で、こっちが現実か。夢の夢は現実と言うわけだな。
しかし、あれはただの夢ではないだろう。なぜならば、あれは実際にあった事たからだ。
しかし、あのあとどうなったのかはっきり思い出せない。また、寝れば思い出すだろうか?
「詩織。起きたばかりで悪いがもう一度寝る」
「何言ってるの」
詩織があきれたように言ってくるが、それを無視して俺は地面に寝転がり手で枕を作る。少し寝心地が悪いが仕方ない。
不意に、なにかに肩を叩かれる。
なにかと思ってみれば、詩織が顔を赤らませながらひざを指差している。
「ありがとう」
俺がそう言うが、詩織は違う方向を向いてしまう。
やれやれと俺は素直に従ってひざ枕で眠る。
再び俺は寝る。
夢を見るために。
あの悪夢の原因を知るために。