第二十一話〜執事
獣が進むように、がさがさと音を鳴らしながら食料探しに、歩く歩く歩く。「ねぇ雄介」
いままで足音と茂みを分け入る音しかなかった世界を詩織が小さな呟きで壊す。
「私達助かるのかなぁ」
神に助けを祈るような声で俺に問いかけるが、俺はわからないとしか言えなかった。
「そう……」
また、小さな声でつぶやいてから何も話さなくる。
俺は、嘘でも助かるとでも言っておけばよかっただろうか?と一人自己嫌悪。
二人の気まずい沈黙の時間がゆったりと流れる。
それは一時間だったのかもしれない。はたまた一分かも、いや数十秒だったかもしれない。
「なぁ」
そんな沈黙に堪えられず話し掛ける。
「なに?」
顔をこっちに向けないでぶっきらぼうな返事。
完璧に機嫌を損ねたな……。
「助からないかもしれないがお前一人くらいなら守ってやるよ」
出来るだけ感情を込めないようにしてこっちもぶっきらぼうに言ってみる。
そんな歯の浮くような台詞を言ったのは何故なのか、自分でもわからないが、多分機嫌を取りたかったんだろう。
はっと詩織がこっちに顔を向けたかと思うと、また、すぐに顔を背けられる。
「なっなめるなよ、私だって自分の事ぐらい自分で守れる」
こっちを向かずに、あさっての方向からそんな声が聞こえてくる。
「そうか」
少し残念そうにいってみる。
「でっ、でも守られてやらないこともない」
明らかに照れている声。
機嫌はどうやら取り戻せたようだ。
「きゃっ」
いきなり後ろからの短い悲鳴に驚いてそちらを見ると、顔を青白くさせた詩織と、やっと餌を見つけたかのようにうれしそうな蛇が一匹がうねうねとうごめいていた。
小さなため息を一つだけつくと、詩織の脇を両手で持ち上げる。
そう、それはちょうど昔、俺が親父によくしてもらった高い高いのように。
「ちょ、何するの」
俺の目の前でじたばたと足を動かしつつも、顔を赤らめて騒ぐが、この程度の重さならなんともない。
そんな騒ぎを無視して、詩織を俺の背後に回す。
「ごめんな」
目の前の蛇に一言を言ってから手持ちのナイフで晩御飯にする。
思わぬ収穫に喜びながら、丁寧に晩御飯を血抜きをしていると、後ろから物凄い殺気を感じる。
恐る恐る殺気のほうに顔を向けると、殺気を発していた小鬼が物凄い勢いでまくし立て始める。
内容は確かレディーに失礼だとか、セクハラとか、ロリコンとか罵られた。
「じゃあもう守らなくてもいいのかな?」
少しむっとしたので仕返しにと意地悪を言ってみる。
「男が一度いったことを曲げるの?」
しまった、逆効果だったか、この小鬼には小細工は効かないようで、さらに怒ったように言われる。
「わかりましたよ。守りますよお姫様」
胸に手を当ててわざとらしく頭を垂れてお辞儀をする。
「分かればいいのよ」
お姫様は、ない胸を目一杯張って偉そうに、俺へお願いと言う名の命令を言い渡した。
「お任せください」
おどけた様子で頭を垂れたまま答える。
まったく、俺はどこの執事だよ。
そんな会話をしながらまた、食料を探し始めた。
「あれって食べれる?」
そんな詩織の溌剌とした声が聞こえたのは、最初の食料を見つけてからかなりの時間立った時だった。
「ねぇ、あれだってあれ」
そんなにも嬉しいのだろうか、詩織は木にぶら下がっている『あれ』を指を指しながら目を輝かせている。
「いけるんじゃないか?」
俺はそれに目を向け、機内で読んだ本を思いだし、猛毒注意のページには載っていなかったことを確認する。
「本当に?」
俺の顔色をうかがいながら不安げに問い掛けてくる。
「食べれる……多分な」
しっかりと大丈夫だと詩織に教えてやる。
もっとも、最後の方は聞こえていないだろうが。
「夕食ー夕食ー」
嬉しそうに、俺の周りをぐるぐると行進を始める詩織。
だがな詩織、悲しいお知らせだ。
「残念ながらあんな高い木の果物なんか取れそうにないぞ」
「え?」
肩に手を置いてやると行進をピタリと止めて振り返り、悲しそうな瞳をすると思いきや、期待に満ち溢れた瞳で俺のことを見つめる。
「え?」
俺にはその期待の眼差しの意を汲み取ることが出来ずに、間抜けな返答をしてしまう。
「えー」
残念そうな声を漏らしながら、目線を木と俺を行ったり来たりしている。
「えー」
俺だって馬鹿じゃないから今度の視線の意味はわかる。