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第四十七話〜雨

 朝、俺はあまりの寒さに目を覚ました。この寒さは異常だ。俺が起きないから水でもかけられたのだろうか?目を開けると、本当に俺は水浸しだった。が、しかし誰かに水をかけられたわけではない。何故ならみんな等しく濡れていたからだ。
「雨か」
 空を見ながらつぶやく。地面にはちょうど水溜まりも出来ていて、ちょうど鏡のようになっている。
「なん……だと……?」
 その小さなつぶやきを俺は聞き逃さなかった。見ると大西が頭を抱えている。大西の目線は地面。いや、水溜まりに向いていた。
「どうしたんです」
 海人さんが様子を尋ねると大西は驚いた様子で頬を手で隠して、なんでもないよと平静を装う。俺はその隠す前の頬を見ていた。
「感染者はどうするんだったかな」
 俺はわざと聞こえるように大きな声でぼやく。
「か、感染者にも人権があるのだから、何もしちゃいけないと思いますよ」
 俺はそんな返答を聞いて口元を歪ませる。いままでと主張が180°違うんだからそれは傑作だ。
「感染者の近くにいたら感染するかも」
 大袈裟にアクションしながら言ってやるとまた、感染する可能性は100%じゃないから大丈夫なんか言ってたりして必死だ。あまりに必死になりすぎて体を使ったアクションまで取り入れている。そんな大西にさも知らなかった、といったふうにいってやる。
「大西さん大変だ。頬に感染の印が浮かび上がっているじゃないか」
 大西ははっと気付き頬を隠す。もう遅いというのに。そんな光景を見て俺はまた笑う。
「知ってたのね」
 詩織が俺の隣でつぶやく。見ると詩織も笑っていた。笑いながら俺はさあなとつぶやいた。
「先に進みましょう」
 いきなりの海人さんの声に、こんな雨でも動くのか、とは思ったが、まあ早くここから逃げたいのだろう。

「おはよう」
 声に視線を上げると神条さんか笑いながら俺に手を差し延べている。昨日はあれだけ言い争ったというのにどんな心境の変化なのだろうか。
「俺も考えがなさすぎた。昨日はすまなかった」
 本当にどうしたというのだろうか?
「いくぞ」
 神条さんは差し延べている手をもっと俺に近づける。その手を恐る恐るつかむと、手が上下に振られる。仲直りの握手か……。
「そうだ、俺の勤め先の近くに美味い焼鳥屋があるんだ。脱出したらおごりで連れていってやるよ」
 ニッコリと笑うその顔に嘘はなさそうだ。
「そいつは楽しみだ」
 握った手を自分の方に立ち上がろうとする俺だったが、俺は立ち上がるどころか、体に重みを感じる。
「神条さん?」
 俺が引っ張ると同時に俺に倒れて来た神条さんを揺さぶる。揺さぶり続けて気付いた。この人のちょうど心臓辺りから血が出ている。その傷はまさになにかに撃たれたようだ。

――「見つけた」

 その小さなつぶやきに、いきなり背筋がゾクゾクし始める。俺の本能が全力で警鐘を鳴らしている。
「見つけたぞおぉ」
 見るとやはり雨に濡れながら白煙を上げている銃を持った鬼がいた。しかも凶悪な笑みで。

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