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第十四話〜お前はだれだ

 集団から抜けて歩いているとやたらと足音が聞こえてくる。
 俺と詩織と海人さんにしては多い。
 これは変だと思って後ろを見る。さっきまで俺の近くにいた六人がついてきていた。いつの間に増えた。
「雄介」
 詩織が俺の隣で話しかけてくる。
「なんだ」
「皆疲れてるわよ」
 詩織は後ろを指差して
「知ったことじゃない」
 一人ならどうにかなるが六人も面倒は見切れない。
「でも」
 少し悲しそうな声で言って俺を見る。
「わかったからそんな悲しそうな目をするな」
 また、この目に負けた。
「わーいヤッパリ雄介は優しいね」
 そう言って腕に絡み付いてくる。
「やっぱり先に進もうかな」
「わーごめんなさいごめんなさい」
 そんなやりとりをしながら遅れている六人を待つ。
「やぁ」
 片手を挙げて挨拶をする。
「雄介君」
 汗をだらだらと流して、いかにも疲れたという顔をした海人さんたちがやっと到着する。
「お疲れみたいですね」
 日陰を指差して座るように促す。
「あぁすまないね」
 それぞれ、ぐったりと座り込んでしまう。
「ここらで休憩にしましょう」
「すまないね」
 みな疲労困憊 といった感じで円になるように座った。
「ここらで自己紹介でもしておかないか?」
 海人さんがそう言い出した。
 俺は必要ないといったが海人さんがどうしてもというのでしぶしぶ自己紹介に参加する。疲れているのなら黙って座っていればいいのに。
「二宮詩織です。趣味は読書で特技は工作です。詩織って呼んでください」
 最初に勢いよく詩織が立つとぺこりとお辞儀をして元気に挨拶をする。
「ん?」
 二宮詩織?二宮?こいつは確か三宅じゃなかったか?
「詩織」
 小さな声で詩織に尋ねる。
「なに?」
 同じく小さな声で返してくる。
「おまえの苗字は三宅じゃないのか?」
「二宮は偽名ですよ、信用できそうな人いないですし」
 笑顔で俺に教えてくれる詩織。
「じゃぁ俺は信頼に値するってことでいいのか?」
「さぁどうでしょうかね」
 詩織はそういうとぺロッと舌を出して笑いかけてきた。まぁ信用されてたらいいな。
「田中 悠(たなか ゆう)です…特技はありません……田中で結構です」
 次に挨拶をしたのはどこかで見たことのある陰のある細身のリーマンだった。
 しかし、特徴が無い。それだけ警戒はしなくてよさそうだ。たぶん出張に行く最中に事故に巻き込まれただけだろう。
「井上 海人(いのうえ かいと)だ、特技はないが力仕事なら任せてくれ海人でも井上でも好きなように呼んでくれ」
 次に自己紹介をしたのは海人さんだった。
 この人は多少人に干渉しすぎるようだ、あまりかかわりあいたくないな。
「桜井 恭子(さくらい きょうこ)ですー特技はメールの早撃ちー?きょんって呼ばれてました」
 茶髪で長髪の女がだるそうに自己紹介を終えた。やばい。こいつからは前田と同じにおいがする。
 しかし、きょんだと?
「神条 竜(かみじょう りゅう)だ、特技は喧嘩だ、好きに呼ぶといい」
 見るからにあっちの人だこいつは。なにせ白のスーツを着て貴金属をジャラジャラつけている人間なんて映画の中だけだと思っていた。
 絶対こいつには弱みなんかは握られたくないな。
「武内 賢太(たけうち けんた)です、特技はアントニオ猪木の物まねです」
 そういうといきなりあごを突き出して元気ですかーとかやっている。
 まったく空気の読めないやつだ。みんな固まって……。
「おもしろーい」
 ……詩織には違ったか。
 まぁ学生服を着ているし、たぶん学生なのだろう。
「大西 翔(おおにし しょう)だ。知っているとは思うが議員だ」
「酒井家惨殺に関与しているんじゃないかとうわさされている」
 最後に大西が自己紹介を始めたので、そう付け足してやっておいた。
「何をいうんだ君は」
 ちょっと怒こったように俺に言う。
「ただの独り言です」
 自己紹介も終わり、静かになる。しかし、なんだろうこの緊張感は?全員俺を見てないか?
「君の番だよ」
 そういえば俺がまだだったな。
「酒井 雄介(さかい ゆうすけ)だ」
 俺はその場で立ち上がると、詩織に習って偽名を使ってみる。特に意味はない。酒井と名乗ったのはもちろん大西への嫌がらせだ。
「なに?酒井だと」
 流石にこの不意打ちには議員も少し動揺していた。少し笑いながら座る。
「それだけかい?」
 海人さんがもう少し頼むといった感じで見てくる。
 やれやれと手を上げてもう一度立ち上がる。
「特技はない、呼びたいように呼んでくれ」
 再び座ると海人さんがあきらめたように首を振っていた。
「な、何はともあれこれから八人仲良くやりましょう」
 沈黙に耐えられず海人さんがそういう。
「そうですね」
「えぇ」
「はーい」
「うぃーっす」
「たのむ」
「しかたなくね」
 三者三様ならぬ七者七様の声が返ってくる。七人でいつの間にか意気投合している。もう勝手にしてくれ。

第二章完

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