TOPに戻る
前のページ 次のページ

第十三話〜怖いものは怖い

 一人の男性が女性に駆け寄る、たぶん恋人だろう。
 そうでなければ誰も感染するかもしれない病人の元へとは行きたくないだろう。
「美穂、美穂」
 たぶん美穂と言うのは倒れた女性の名前だろう、男性は必死に女性の名前を呼んでいる。
「どけどけ」
 人ごみを割って数人の人間が出てくる。
「あれは?」
 そいつらは銃を持って武装したハイジャック犯たちだった。
 しかしその数は機内よりはかなり減っているようで四人しか居なかった。
「残念なことに、彼らも生き残ったんだよ」
 海人さんは顔をしかめてそういった。
「いったい何の騒ぎだ?」
 ハイジャック犯の一人が人ごみに問いかける。
「感染者が出たんです」
 するとすぐに人ごみの中の誰か一人が答えた。
「じゃぁ掃除しないとなぁ」
 そう言うと一人の銃を持った男がうれしそうに女性に歩み寄る。
「待ってくれ、美穂を撃たないでくれ」
「ぁん?」
 先ほどの男性が女性と男の間に立って道をふさぐ。
「助かるかもしれない頼む」
 男は地面に頭をこすり付けて懇願していた。
「うっせぇよばーか」
 そう言うと銃を持った男は地面に頭をこすり付けている男を銃で殴りとばす。鈍い音と同時に、つい先ほどまで地面に頭を擦り付けていた男が後ろに転ぶ。
「おいおいそう言う事かよ。感染者は感染物同士傷をなめあうってわけね」
 ニヤニヤと笑いながら飛んでいった男を見下す。
「くっ」
 地面に横たわる男の殴られてむき出しになった胸元からは感染の印であるバーコードがしっかりと浮き出ていた。
「It's time for cleaning.(お掃除の時間だ」
 銃を持った男はそういって楽しそうに微笑み引き金を一気に引く。
 乾いた音と同時に女は胸から血を流して絶命する。
 次の乾いた音で男も動かなくなる。
「なぁこいつら全員殺したほうが早くね?」
 目の前に二人分の死体が転がっていると言うのに、男は残った人ごみを見て楽しそうに言い放つ。
「やめておけ、弾の無駄だ」
「ちぇ」
 目の前で殺人が行なわれたと言うのにそこにいる人間は騒ぎ立てる様子もなく、さもそれが当たり前のように見ていた。
「何で悲鳴のひとつも上がらない」
 素直な疑問をぶつける。
「みんな病気は怖いんだよ。こんな方法はおかしいが今はこれしかないんだよ」
 邪魔なら殺してもいいと言うのか、俺も今回爆弾でたくさんの人を殺めたがそれは納得いかない。なぜか胸糞悪い。
 しかし、こんなことをいえた立場ではないな。
「ん?」
 不意に先ほどまで銃を撃っていた男と目があったような気がした。
 背筋が凍る。
「……俺はここから抜けさせてもらう」
 いきなりそう言うと立ち上がる。
 目があった瞬間に感じた。あいつはおそらく俺を殺そうとしたあの鬼だろう。
 あちらはまだ気づいていないようだが気づかれたらまず俺は十中八九は殺される。
「詩織、行くぞ」
 まだ俺がここに来たのが多くの人間に知れ渡って居な言うちに去るのが吉だ。
「はーい」
 なぜかわからないが詩織も連れて行くことにする。
「待ちたまえ」
 立ち去ろうとする俺に海人さんから声がかかる。
「なんですか?とめようとするならお断りしますよ」
 ささっと歩き出したい。一刻も早くここから逃げ出したい。
「違うよ。その逆だ……私たちも連れて行ってくれ」
 一瞬なぜか?なんてつまらないことを考えたが、別段一人くらい着いて来た所で何も変わらない。
「ついてきたいのならご自由にしてください」
 そう言って俺はその場から立ち去った。後ろに新しく詩織以外の足音を感じながら。

前のページ 次のページ
TOPに戻る
inserted by FC2 system