プロローグ
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プロローグ

 世界では急激な技術革新により、PCがものすごい普及率を見せていた。おかげで人間は簡単に他国の情報を手にいれ、他国の人間と触れ合うことができるようになっていた。
 しかし、その弊害としてネットでの犯罪は増大し情報の混乱を招いた。人間は心の鍵を南京錠から18000桁のナンバーロックに変えてしっかりと心を守らなければいけなくなり、人は人を信じず、調和を求めて孤独になっていった。
 そんな世界の中、ひとつの異常が生まれた。それは精神病の一種で、症状はさまざま。ただわかっているのは、心に傷を持ったものに発病しやすいといったことだった。
 その病気の最初の発病者は男だった。
 彼は借金取りに追われ、つかれきっていた。なんでも、信じていた親友に借金を踏み倒されたそうだ。
 そして、彼は死にたいと願い手首を切ったところ、血が流れてこず、おかしいと思った彼は体のいたるところを傷つけて出血多量で死んだ。
 その男の症状は簡単。視覚が赤を認識できなくなっていたのだ。
 彼の部屋は真っ赤に染まっていたと目撃者は語った。確かに体から何かが流れているのは分かっていたが、実際に見ないと不安だったのだろう。彼は、部屋のいたるところに血を擦り付け、赤という色を見ようとしていたのだ。主人の居なくなった真っ赤な部屋のテーブルの上には、血文字で俺にはこれが見えないと書かれていた。
 二人目の発病者は女性だった。彼女もまた、心に深い傷を負っていた。彼女は片思いの彼を殺されてしまったのだ。
 彼女の症状は他人を呪い殺す。顔も名前も出身も性別も関係ない。ただ彼女が殺したいと願えばそれだけで人は死んだのだ。
 しかし、彼女もまた、その症状と人を殺したという重圧にに耐え切れず、結局は自分を呪い殺してしまった。
 彼女の部屋には、無数のわら人形があったという。
 このように、この精神病は重いものから軽いものまで、さまざまの性質を持って生まれてくる。それは、先ほどの例のように色を失ったり、人を殺せるようになったり、本当にさまざまだ。
 だが、先にも言ったとおり、この病気には特定の病状はない。故に、この精神病はこう呼ばれた『nameless(ネームレス)』と。
 ネームレスという呼び名は患者の総称としても使われた。そして、その種類に応じて三つの種類に分けられる。
 殺傷能力を持ったKiller(殺す者)、周りに影響を与えるGiver(与える者)、自らに影響を与えるTaker(受ける者)。
 そして、それは危険度合いに応じ、おおよそ六つの階級に分けられる。死刑級(一級)、捕縛級(二級)、危険級(三級)、警戒級(四級)、注意級(五級)、ゴフォン(good-for-nothingつまりは役立たず)。
 認定といっても、基準など曖昧なもので、見た人間が危ないと判断すれば、それだけ階級が上がっていくのだ。つまるところ、他人を欺いて能力を隠すことも出来る。がしかし、心に傷を負った患者たちはそんなことはまずしないだろう。
 しかし極稀に、自分の力に自信を持ち、暴走する輩がいるのも確かだが、それもごく一部の異常者の話だ。
 ネームレスたちは、危険と判断されば、可能であればその場で排除。不可能であれば後々機を見て排除。
 要するに防ぐ手立てがないのだったら、何もしないうちに排除してしまおうということだ。
「なんともまぁ物騒な世界になったもんだ」
 警官の制服を着た男は、読んでいた本を持ち主に返す。返事は無い。なんともぶっきらぼうなやつだと思ったが自分の真っ赤に染まった手を見て、なぜかを直ぐに思い出し、そのまま笑顔で去っていく。その後ろ姿はとてもうれしそうで、とても人を殺した人間のものではなかった。
 その男はキラー捕縛級。その男の能力は対象の臓器の場所に手を移動させる事だ。もちろんそれが体内であろうともである。
 無論、彼は数日後の新聞に大きく掲載されることになった。
 お手柄警察官。キラー捕縛級の処理に成功。と。

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