TOPに戻る
前のページ次のページ

第1話〜俺の朝

――朝、部屋の窓を開くと、空が眩しすぎて、もう見たくないと太陽を凝視する。
――昼、友達が楽しそうに話しているのを聞き、五月蝿い雑音だと耳を傾ける。
――夜、歩いていると、月が綺麗だと思い、もっとみたいと目を閉じる。
 そんな事はあなたにありますか?
 
 朝、目を覚まして部屋の窓を開けると暖かな太陽の日差しをうけ、まぶしいと思い目を背けることで俺の一日が始まる。
「おはよう」
 軽く目の前のだらしなくパジャマを着た髪のボサボサとした身長おおよそ175p、体重60s前後の男に挨拶をするが当然のように返事はない。
 なに、いつもの事なので気にはしない。それに、もしもこいつが元気よくおはよう。などと挨拶を返してくるような事があれば俺はすぐにこいつを抱えて病院に駆け込むだろう。
「こいつが元気に挨拶をしました」
 なんて、馬鹿げた事を医者に必死に訴えるだろう。
 だがしかし、おそらくそれをしたら俺は病院で少しの間泊まりをすることになるだろう。そんなくだらない事を考えていると今のはなかなか面白かったんじゃないかとついつい口元をゆるめてしまう。
 俺が右の口元を緩ませると目の前のこいつは丁寧に左の口元を緩ませる。俺が右手を上げてくしで寝癖を整えると、こいつは左手で寝癖を整える。全く俺達は逆さだがとても気が合う。
「あにぃ! いつまで鏡を占領してんのよ」
 俺の背後と目の前こいつの背後にも同じ大きさの女が現れる。俺達はやはり同時にやれやれといった感じに肩を上げ、面倒だが横にどいてやる。
 すると今度はこの女と瓜二つな女が現れ、この女と左右反対の動きを始める。こいつも気の会う奴が居るんだな。
「なに見てんのよあにぃ」
 女はじっと見つめてくる俺に気づき恥ずかしそうに一言かけるとすぐにそっぽを向いてまた髪をセットし始めた。
 俺は用のなくなった場を離れ、香ばしいハムとトーストの焼けるような匂いに釣られて歩き出す。
 この匂いからするに、朝食は間違いなく洋食だ。
 そのまま匂いにつられる様にして匂いの元に着くと、やはり朝食が置いてあり俺はそれを頂くことにする。
 いつもの定位置に座り、いつも通りに両手を合わせてから食べ物に感謝の言葉を述べる。食事の際には必ず行うそれを行った後、俺は箸を使い黄色いやつを掴んで白いやつと一緒に食べる。時々温かい白い角ばった柔らかいのが入った茶色のやつも飲む。美味い。
「朝はやっぱり和食ね」
 隣に座っていたのは先ほどの女で、とても嬉しそうに言う。だがしかしお前は香ばしいハムとトーストが出たときは今の台詞の和食のところが洋食になって口から出るよな。
 
「ごちそうさま」
 静かに手を合わせて食べ物に感謝の意を示し、食べ終わった食器を洗い場へと運び自分の部屋に戻る。
 部屋にもどると天井に巣を張ろうとしている蜘蛛を発見し、ただなんとなく眺めながら制服のトンネルに腕を通り抜けさせる。
 おそらく、あの巣は帰ってくる頃には出来ているだろう。
 そんなことを考えながら開けっ放しだった窓を閉めて部屋を後にする。がしかし、数秒後にはまた扉を開け、慌てて部屋に入ってから地面に落ちている鞄を拾いまた部屋を後にする。
 鞄を忘れるというのどうなんだろう。
「行ってきます」
 玄関できちんと挨拶をしてから扉を開けて玄関をでる。
 外は人間ではこんな澄み切った心の持ち主など赤子くらいしかいないだろう。と、いうくらい澄み切った空だ。
「あにぃー待ってよー」
 背後から聞こえてくるのんびりとした声とあわてるような物音は無視して先に進む。
 なに、これもいつものことだ。それに、どうせ待たなくても直ぐに追い付くはずだ。
 俺が家から出て少しだけ時間が経ったときだっただろうか、背後から声が聞こえてくる。
「待ってって言ってるでしょ、あにぃ」
 ほら、やっぱりすぐに追い付いた。

前のページ次のページ
TOPに戻る
inserted by FC2 system