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第八話〜俺はロリコンではなく犯罪者

 半日ほど経ち、日が陰り、水温が下がり始めたところで俺は見事島にたどり着いた。
「本格的に水温が下がる前に上陸できてよかった」
 心からそう思う。
「そうね」
 少女もうれしそうに頷いている。が、しかしここまで泳いだのは俺だ。なのになんでそんなに威張っている。
「このままじゃ冷えるわね」
 少女は、体を丸めてブルッと身震いをしていかにも寒そうにしている。面倒なやつだ。
 しかし、考えればもうすぐ夜で気温もどんどん下がってくるだろう。それに俺も寒くなってきた。
「火なんか持ってる訳無いよな」
 もちろん期待はしていない。
「あるわけ無いでしょ」
「俺も持ってないから気にすることじゃないさ」
 やっぱり期待しなくて正解だった。しかしなぜ胸を張って言う。
「むしろそっちが持ってないのがわるい悪い」
「すいません」
 なぜ俺が謝っているんだろうか?わからないがとりあえず謝らないといけない気がする。
「寒い」
 ふと少女の体を見ると、水で重くなった上着を脱ぎ捨てて地面においているので、中に着ていた長袖がピッタリと体に張り付いて、その幼稚な体系のラインがはっきりと浮き出ている。
 よくよく見れば顔立ちも整っていてなかなかな美人といえるだろうと思う。
「寒いだろうからそこらで服の水をしぼるといい」
「そう?」
 そういって俺は茂みに歩いていく。
「なに?あなた、こんなか弱い乙女を置いてどこかに行こうっての?」
 最高に面倒だなこいつは。
「俺にストリップを披露してくれるのか?」
「そういうこと……」
 少女は頬を赤く染めて答えた。少しかわいいと思ってしまった。
「さっさと消えなさいよ、この変態」
「わかりましたよ」
 両手を挙げて早急に立ち去る。その最中シュルシュルと擦れる合う音を背負って茂みの中に入っていった。
「火を起こせそうなもの火を起こせそうなもの……」
 流石に夜に火を起こさずに過ごすのは寒いし危険だ。
 しかし、特にめぼしいものもなかったので乾燥した木を何本か拾って砂浜に戻る。
「よいしょ」
 木を地面に置いて、火を起こすための下準備を始める。
 まずはよく燃える木屑等が必要だがそんなもの転がっているわけが無いので乾いた木の皮を細かく裂いて代用する。そして、火を起こすのに都合の良さそうな木を選んで擦り始める。
「手伝うことは?」
 少女は、絞ってしわしわになってしまった俺のシャツを羽織ったまま近づいてくる。
 なぜ俺のシャツを着ているかというと、木を拾って戻ったら「服が無いからよこせ」と言って俺のシャツを強奪していったからである。なので一刻も早く俺は火を起こさなければならない。
 なぜなら俺は今上半身裸だからだ。
「特にない。あるとしたら服を乾かすための物干し竿がほしい」
「わかった」
 少女は、長いポニーテールを揺らしながら森には入らず浜辺で何かを探し始める。
 一方俺は、人類の英知は素晴らしいものだと感じつつ火を起こすためにひたすら木を擦り合わせ続ける。
「ライターを開発した人物に最大の敬意を」
 必死に擦り合わせた結果、見事木から白煙が上がり始め火種が出来上がった。それを素早く木の皮を裂いたものの上に置いて、消えないように行きを吹きかける。
「ふーふーゴホッゴホッ」
 もくもくと上がる煙が目にしみる。
 しかし目にしみようが煙を吸おうが今は吹かなくてはならない。なぜなら俺は上半身裸だからだ。
 うまく燃えたところで上に少しづつ木をのせて火を大きくしていく。
「わーい火だ」
 先ほどまで何かを探していたはずの少女がもう帰ってきている。
 そして、俺の努力によって火は安定をしてもう消える心配はないだろうというところまで大きくなった。
「それで?物干し竿は」
 自信たっぷりに少女は俺のほうへとやってくる。
「ほら」
 ない胸を張ってたいそう偉そうに何かを投げてくる。何を自信たっぷりに渡してきたかと思うと少し長めの木の枝だった。俺は、ため息を一つつくとその木の枝に服をかけ始める。どうせ期待してなかったしこの程度が限界さ。
「暖かい」
 二人で焚火に当たり、失われていた体温を少しづつ取り戻していく。何とか生命の危機は脱した。上半身はまだ裸だが。
「ここは何処なんだろうな」
 火で体が温まって、余計なことまで考えられる余裕が出て来た。
「しらないわよ」
 二人で考えても答えなど出るわけもなく、俺達は次の日に備えて寝ることにした。
「おやすみ」
 少女は、俺と近い位置で横になって瞼を閉じた。こいつに危機感というものはないのか……一応俺は男なんだが。まぁロリコンではないから襲う気にはならんが。
「さて」
 俺は火が消えないように薪を加えつつ少女を見る。
 やはり年は13か14といったところだろうか、髪は真っ黒で長く、手入れが大変そうだ。そして顔つきは、目元が少し釣りあがっておりなんとも性悪そうである。と言うか絶対にそうだ。また、体系はまさにまな板だった。
「ヘクチュ」
「まったく」
 俺は、物干し竿にかけていた上着をそっと少女にかけてやり、また火の番を再開する。
「なんだ」
 近くの茂みで音が鳴る。
「なんだよ鳥か…」
 茂みからは見たことのない鳥が羽ばたいていった。明日の朝飯にすればよかったかもしれない。
「飯……」
 夜は不気味で嫌だが、空を見たら俺のすんでる町の安物のプラネタリウムよりもっとすごい星が見られるからまあいいかと思えてくるから困る。
 ため息をつきつつまた、少女の横顔を眺めながら今後について考える。
 火の近くに座り、あごを組んだ手の上に乗せる。
 さて、計画は上手くいった。飛行機は無事に地獄に着陸してくれた。爆弾はうまくダメージを与えられなかったようだが、この様子ならあの議員さんも生きてはいないだろう。
 火を見つめながら俺の計画の上で死んでいった者達を思い浮かべる。
 すまないな巻き込んで、しかし、これもすべてが思い通り。それに、俺が本当は爆弾を爆発させた犯人など誰も気づかないだろう。
「まったく……計 画 通 り」
 俺は一人ほくそ笑む。
「一つを覗いてだが」
 その一つとは、俺の仕掛けた爆弾は一つで貨物室にあったはずのキャリーバックの中だけのはずだ。にもかかわらず、爆発は五度おきた。
 確かにはじめの一回は俺によるものだ。しかし、後の四回は俺のものではない……。
 しかも、悔しいことに俺の爆弾は致命傷を与えられなかったみたいだ。
 ハイジャックの爆弾?いや、あのあわてようでは本当にあいつらではないのだろう。では誰が?考えたところで答えは出そうに無い。
 目的を果たすといった意味では計画通りだが、俺のプランに傷をつけられた。それは許してはいけない。必ず俺のプランに傷を付けた責任を取らせてやる。
「後悔させてやるよ」
 その無人島の闇の中にはすやすやと眠る罪なき少女と、罪深き復讐者がほくそえんでいた。

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