第七話〜気絶
「123456ヒッ」少女は口早に六秒数えて紐を引き、上空に引っ張られていく。
「……6」
俺も少し遅れてから紐を引いてパラシュートを開く。瞬間に上方にグンと引っ張られて落下のスピードが緩まる。
眼下に広がっていたのはどこまでも澄んだ青い海で、遠くにはかなり大きな島が見えていた。空飛ぶ棺もそちらに向かって落ちていた。
「あそこまで流れ着けばいいんだが」
そんなことを考えながらどんどん水へと近づいていく。
派手な着水の音と、服に侵入してくる海水の冷たさを感じながら俺は生きているんだなと実感する。
「きゃぁぁぁあ」
大きな悲鳴と水の音と共に、近くで少女も着水した。
俺は水を吸って重たくなっていくパラシュートを外し、泳ぎだそうとするがいつまで経っても少女が動く気配は無い。
仕方なく少女の元に近づく。やっぱり少女は着水のショックで気を失って、俺がパラシュートを外してやらないといけなかった。 渋々と少女を背中に背負って泳ぎ始めた。水は思ったより暖かく少女は思ったより重かった。
まったく面倒をかけるやつだ。
「っん」
眠そうな声と同時に気絶していた少女は起きてくれたみたいだ。
「おはよう」
とりあえず挨拶をしてみる。
「おはようございま……どちらさま?」
少女は不思議そうな顔で俺を見ている。おいおい冗談はよしてくれよ、記憶喪失だなんてこれ以上面倒になるなら捨てるぞ。
「あぁ一緒に飛行機から飛んだ人ね」
手をついて思い出しましたのジェスチャーでアピールしてくる。
「捨てなくてすんだな」
「え?捨てるってどういう」
「なんでもない」
俺の独り言にもいちいち反応してれるようだ。
「そうですか……ところでどちらさま?」
そこは納得していいところなのだろうか?そしてこの場合は名前でいいのだろうか?
「雄介…無藤雄介(むとうゆうすけ)だ」
とりあえず名前を名乗っておくことにした。
「無藤さんね。私は」
少女はすぐに自己紹介を始めようとする。
「いや、名前なんか別にいい。それよりいつまで俺につかまってるんだ?」
しかし自己紹介をさえぎり俺の願望を述べた。俺の体力も無限ではないので早いところ降りてほしい。
「泳げない」
少女は憮然とした態度で答える。
「そうか」
何故偉そうなのかはわからないが、俺は少女を背負ったまままた泳ぎ始めた。まったく泳げないなら最初から海に飛び込もうなんて思わないでほしい。
「無藤さん?」
「なんだ」
五月蝿いやつだな。
「助けていただいてありがとう」
一応お礼はいえるみたいだ。
「俺が提案したことだ。失敗して俺の計画に傷が付くのは好きじゃないからな」
少女に気を使わせるのも癪なので適当に言葉を繕う。
「まぁ当然ね」
フォローするんじゃなかった。
「それにこれも想定内だから気にするな」
そんな態度を取られるといやみの一つぐらい言いたくなる。
「想定内……足手まといにはなっていないようね」
こいつは俺の皮肉には気付かないのか?
「「…」」
それからは二人とも沈黙を守りひたすら島を目指した。しかし海がきれいだ。