TOPに戻る
前のページ 次のページ

最終話〜げーむおーばー

「なに!?」
 大西は驚いてその場で固まる。
「テープは無事だよ」 
 そういって大西ポケットからハンカチだけを抜き取り、すばやく大西から距離を取る。
「貴様あぁぁ」
 驚きで固まっていた大西だったが、すぐに俺が渡した銃を取り出して俺を狙おうとする。
「「動くな」」
 大西の銃は俺を殺す鉛玉を吐き出す事なく下ろされた。何故ならば救助に来たのは黒尽くめのハイジャックも制圧できるような武力の隊員達だったからだ。
「貴様等には未知の感染病の感染とハイジャックの疑いがある。おとなしくしろ」
 俺と詩織はおとなしく両手を上げたが大西は俺の正体を知ったからか、何とかして俺に攻撃を加えようとしていたが、救助に来た隊員達に無理やり地面に押さえ付けられて十分と砂の味を堪能していた。
「さあ、こっちに」
 抵抗をしないことから無害と判断されたのだろう。特にこれといった拘束はされずに船に乗り込む。大西は何かを叫びながらつれられていった。船に乗り込むと、まずきていたものを全て消毒と証拠保存のためといわれて持っていかれ、白い細菌防護服を着た人間達になにやら粉を吹きかけられて無理やりシャワーを浴びるように言われる。その後、渡された服に着替えてから、小さな部屋に通されて軽く質問をされてから結果が出るまで待つようにと言われて小さな部屋から開放された。
「よう」
 船内を特にこれといった目的もなくふらついていると、ばったりと詩織と出会った。多分俺はこれを求めてふらついていたのだろう。
「甲板にでもどう?」
 俺は詩織の提案に首を縦に振ることで答えた。
「長かったわね」
 不意に詩織がつぶやいた。思えば俺の爆弾が爆発してから出会った。結局俺はその頃から利用されていたのだが、今ではそれでもいいかなとさえ思う。しかし色々な事があった。多くの人が死んだ。多くの恨みが生まれた。
「これからどうするんだ?」
 特に意味はないが気になったので聞いてみた。
「先のことはわからないわ」
 そういう詩織は、いつもはまとめていたポニーテールが今は解かれ、風になびき大きく広がり、顔も少し大人びて見えた。
「そういえば私が渡した香水覚えてる?」
 唐突に詩織がいい始めた。香水というのはあのいらないといって俺に寄越した綺麗な瓶のやつか。あれ香水だったんだな。
「あぁポケットに入ってる」
 今は手元に無いが確実にポケットに入れたのは確かだ。
「そう……あれ実は今回の感染病のウィルス」
 ウィルスね……最後の最後まで俺は騙され続けたわけだな。これでめでたく詩織は証拠が無いから無罪。犯人の身代わり完成という訳だな。確かにこんな小さい子が香水なんて少しおかしいと思った。
「三宅、二ノ宮、一之瀬」
「いきなり私の使った名前なんてらべてどうしたの」
 不思議そうにこちらを見つめる詩織がいつもと違ってやけに艶やかだったのは、やはり髪型のせいだ。ついでに言うと不思議そうにしていたのは恐らく身代わりにされたのに特に怒りもしないからだろう。俺からすればそんなことは別段問題ではなく、今から言う事の方がいくらか重要だ。
「名前の始めだけ取ると三、ニ、一だ」
「本当ね、雄介は変なところで気がつくのね」
 確かに偽名に意味を持たせるやつなどあまりいないだろう。そう言いながら風で大きく広がった髪を邪魔そうにはらう。おそらく本当に意味など無かったのだろう。
「三、ニ、一ときてるんなら今度は零になって見るというのはどうだ?」
 詩織は何を言っているかわからないようで首を傾げたまま声を上げている。
「まぁ年齢的に俺がおじさんになったらだろうがね」
 遠い目で、おそらく俺が向かうであろう国を、見えるがずも無いのに見つめる。そう、俺の国は俺のような年下が好きな部類の人間には優しくないのだから。
「で、雄介はこれからどうするの」
 結局俺の言わんとすることが分からなかったのだろう。いきなり話題を変えてくる。
「俺か? 俺は――」
 俺が言いかけたその時に船員があらわれた。もう武装はしていなかったが。
「荷物のことで少し聞きたいことがある。ご同行願おうか」
 そう扉を指す船員。恐らくポケットの中身だろうな。仕方がないんだ。ここらで終わりだ。
「じゃあ詩織、後で」
 俺が手を振ると詩織も笑いながら手を振り返す。これでいいんだ。
「香水大事にしてね」
 詩織の最後の言葉を聞きながら船内に連れて行かれていく。やがて扉は閉ざされ、詩織の顔も見えなくなってしまう。俺はこれからどうなるのだろう。船は故郷へと向かっていた。

前のページ 次のページ
TOPに戻る
inserted by FC2 system