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第六十一話〜饒舌

 俺達二人が砂浜にたどり着いたとき、そこには信じれない光景が広がっていた。俺は新たに現れたそれに走り寄り、揺さぶる。反応がなかった。辺りは赤い血溜りが出来ており、明らかになにかがあったのだろうといった様子だ。
「何故殺した」
 俺は動かなくなったそれを抱き抱えながらつぶやくが、帰って来たのは沈黙だけだった。
「何故殺した、大西!」
 もう一度、今度はつぶやきではなく叫ぶ。しかし、それさえもやつには届かなかったようで大西からはケタケタと笑い声が聞こえるだけだった。
「貴様ぁ」
 なにも言わない大西に怒りを覚えた俺は立ち上がり、大西にかけよろうとしたが、すぐに足を止めることになった。
「おっとそれ以上動くなよ。もっとも、胸に風穴を開けたいのなら別だが」
 そういって大西は俺に銃口を向ける。玉が切れたんじゃなかったのか……。
「あなたも動かないでほしいわ」
「なに?」
 いきなりの声に大西が驚いてそちらを見ればそこには、俺に突き付けていた銃を大西に向けて突き付けている詩織が居た。俺も頭を冷やして周りを見てからこの状況を打開する方法を探す。元はといえば自分が後先考えずに起こした行動でこうなったんだ。自分でどうにかするしかない。きょろきょろと回りを見回すと、俺の視線の先にはちょうど鬼が持っていた銃が転がっていた。あれならこの状況をどうにかできそうだ。俺はゆっくりと両手を上げて無抵抗を装いながらその銃のほうへと歩をゆっくりと進める。まさに忍者のように抜き足差し足といった風にゆっくりとだ。やがて、足元に銃が来たところで、詩織に目で合図をする。つたわるだろうか。
「へくちゅ」
 なんともかわいらしいくしゃみが聞こえて来て、俺は苦笑しながら詩織の方向を見ようとしてやめた。なぜなら大西も詩織を見ようとして、俺から気がそれているところだったからだ。チャンスは今しかない。俺は急いで鬼の落とした銃を拾い上げて大西に向ける。
「動くな」
 その言葉にこちらを向いた大西は詩織と俺の交互に目を向けて諦めたように両手を上げる。
「銃をこっちによこせ」
 銃口はきっちりと向けたままはっきりと命令すると、わかりましたよと小さくつぶやいてから銃を投げてよこした。
「もう一度聞く、何故殺した」
「君もしつこいね、何故殺したってそれは、そこの酒井君が銃を持っておれを屠ろうと襲って来たからだよ」
 やれやれといった風に首を横に振りながら答える大西だったが海人さんの手元を見ればすぐにわかる。
「残念ながら海人さんは銃なんか持っていないぞ」
「そうか、ならいきなり首を絞めて来た事にしよう」
 大西は両手を合わせて、さも良い考えだと言わんばかりにうなずいている。
「俺は冗談を言いに来たわけじゃない」
 その言葉で大西の足元で地面が爆ぜる。
「俺も聞きたいね、なんでそいつが井上じゃなくて酒井だってしっているかを」
 しまった……そういえば酒井と聞いたら自分のことだと思わないといけないのはずだ。大西は嫌らしくにやりと笑い言葉を続ける。
「まあ話してもいいだろう。なんだかおまえもなかなか面白い過去を持って居そうだからな」
 そういうとやっぱり笑いながら語り始める。
「俺が酒井を殺す理由も命を狙われるのも同じ理由で、こいつは組織の裏切り者だからだ」
 組織と聞いて、すぐに俺の父を殺した組織だと察しは付いた。
「こいつが組織を抜けた理由はあれだ、確か昔一人の子供を殺すように命を受けて実行しようとしたが、違う子供を殺したからもうだめだ。だったかな?」
 なんてことだ……この人がたかしの仇だったのか……。組織から抜けていたなら道理で見つからないわけだ。しかしそれを知った上今では、復讐をすることも叶わない。遅すぎたんだ。
「その程度で辞めるのなら俺達はなにもしなかった。だがこいつが抜けて四年経ったある日、組織の人間が次々に警察に捕らえられて行った。俺達はすぐに裏切り者の仕業だとわかったんだよ」
 確か俺が組織の人間を次々に豚箱にぶち込んだのも、事件から四年過ぎたある日のきっかけからだった。つまり大西達は仲間達が捕らえられていくのは海人さんの裏切りだとおもって海人さんを殺そうとしていたわけだ。どおりでいつまで経っても俺が襲われないわけだ。
「裏切りは死で償ってもらわないといけない。だからこいつの家に乗り込んだんだが、肝心のこいつはいなくて家族だけがいたから代わりに殺したわけなんだが、それに怒ったこいつは俺達に復讐を誓ったみたいなんだよな。逆恨みもいいところだ」
 大西はそうぺらぺら話しているがどんどんと自分の頭の中でばらばらだった話のピースが一つになっていく。
「顔や体型を変えて俺を殺そうとしたみたいだったが、パスポートの名前まではどうやら変えられなかったようだ。俺が命を狙われているというのに乗客をチェックしないとでも思ったのか」
 乗客をチェックしたと普通に言ったが、ならば俺も調べられたんじゃないのか?
「裏切り者には復讐出来たし俺は満足だよ」
 大西は俺のほうを見てにこりと笑ってから言葉を続けた。
「さて次は君らについて聞こうか、まずは一之瀬詩織さん君について」

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