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第五十四話〜遺書

 詩織が寝ている最中、何度も寝苦しそうに寝返りを打つので、俺はいつか詩織にそうされたように詩織をひざ枕してやる。男だから固くて嫌かもしれないが地面よりはいくらかマシなはずだ。
「腹減ったなあ」
 詩織に膝枕をきちんとしてやり、そう言いながら俺は天を仰ぐ。雨が降らずに飴が降ればよかったんだと思ったが、飴が降ればそれはそれで大変そうだ。何せあんな硬いものが降って来たら傘なんて意味をなさないだろうから、皆鉄板の傘をさして生きていかなくてはいけない。鉄板の傘ということはかなり重いのだろうから皆ものすごく筋肉流々になるんだろうな……。そんなくだらないことを考えながら、詩織の頭をなでてやる。
 あまりに腹が減るもんだから、何か無いかとポケットをあさると詩織から貰った小瓶と、田中さんの手紙を見つける。残念ながらどちらも食べれそうに無い。俺は詩織から貰ったプレゼントを取り出して光に当ててみる。太陽で乱反射した光がなんとも綺麗だ。そんな綺麗なビンの中に汚れを発見したので、俺は丁寧に瓶全体を布でふき取り、割れないようにそのまま瓶を布で丁寧に包んだ。次に田中さんの手紙を取り出す。取り出す途中でもう一枚紙が落ちた。
「海人さん……」
 そいつを拾い上げて思い出した。それは海人さんが別れ際に後で読んでくれと渡してきたあの手紙だった。
「認めたくは無いが……」
 海人さんが帰ってこず鬼が帰ってきたということはそう言うことで、これはたぶん遺書になるんだろうと思いながらゆっくりと手紙を開く。
『雄介君、ちゃんとまだ生きているかい?この手紙を読んでいるということは、私の姿はそこにはないということだ。もし私が近くに居たらこの手紙は私に返してほしい。そのときは私が自分でここに書いてある事を自分で話そう。』
 しっかりと回りを見回すが、海人さんの姿は無い。よし続きを読んでもいいな。
『さて、本題の指輪の届け先だが、簡単に見つけることが出来るだろう。そういえば真実を語る前に自己紹介がまだだったね。私は酒井海人という。君も偽名だったんだし、騙したなとかは無しにしてほしい。
 さて、私が飛行機に乗った理由など、感のいい君のことだから酒井という苗字でわかるだろう。そうだ、私は大西に家族を殺された酒井だよ。だからあいつに復讐をしにきた。飛行機にの爆弾は私だよ。うまく墜落はしてくれたがとどめはさせなかった。
 君も何らかの理由があって偽名を使っていたんだろう。しかし私にはどうでもいいことだ。どうか指輪を頼んだ。場所は私の名前で分かるよね』
「爆……弾……?」
 手紙を何度も読み返し、理解しようとする。俺は仕返ししようとしていた爆弾の犯人に助けられたわけだ。しかも、同じ大西に怨みを持つものにだ。手紙を閉じて思い直す。これは絶対にあいつに復讐しなければいけない。別に海人さんの復讐まで背負うつもりはないがこの手紙を読んでふとそう思った。
 手紙を閉じたところでふと気付く。それは手紙の本文とはずいぶんと離れた場所にあった。

 追伸。
 あの女には気をつけろ。

「何してるの雄介?」
 俺のひざの上で、あの女が目を覚ました。

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