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第四十九話〜息切れ

「はぁはぁ」
 何日もの間、何も食べていないような気がする。
 何日もの間、まともに休息を取っていないような気がする。
 何日もの間、逃げているような気がする。
 何日もの間、怨んでいる。
「はぁはぁはぁ」
 いったい後何日間、食わず、休まず、止まらず、怨めばいいのだろうか。人一人を殺すのにこんなに労働力が必要なのだろうか?殺したいやつは死なないのに、何故死んでほしくない人や関係ない人ばかり死んでいくのだろうか?
「はぁはぁはぁ」
 疲れた詩織を背負い、走る。少々重いが自分が担ぐと決めたのだからここで負けるわけにわけにはいかないだろう。ちょっと前にお前は俺が守るなんて事も言ったし、やっぱり自分が好いた相手くらいはこの手で守ってやりたい。復讐を計画している人間が、愛だの恋だのを言う権利は無いのだろう。しかも相手が少女とは、俺はとことん最低だな。
 後ろでは詩織がごめんねと言っているが無視して走り続ける。今声を出したらきっと動けなくなるに違いない。
「はぁはぁはぁ」
 そういえばどうやって復讐しようか?俺は回らない頭を回す。そういえば羽に爆弾を仕掛けたのは誰なんだろうか?そいつにも仕返ししないといけない。
「はぁはぁ」
 そろそろ足がふらついてきて、自分の足につまづきそうだ。それは当然だろう、何故なら俺はアスリートじゃなければ軍人でもない。そして趣味で走っているわけでもなく、昔走っていたわけではない。何が言いたいかというと、俺はもう限界だという事だ。
「はぁはぁ」
 限界だと思っていてもやっぱり走らなくてはいけない。走って、走って、逃げなくてはならない。それが今の俺に出来る最大の事だ。まだ死ぬわけにはいかない。まだ食わず、休まず、止まらず、怨まなくてはいけない。
「はぁはぁはぁ」
 心臓はハードロックのバスドラムのように激しく鼓動を打っている。あと少しで砂浜だというのに倒れてしまいそうだ。
「はぁはぁ」
 砂浜が見えてきている。あと少しなのだ。しかし、なんで大西は普通についてきているのだろうか?こいつ……イケメン+高学歴+高収入+スポーツ万能。畜生、ますます殺したくなってきた。完璧人間め死ね。
 何分くらい走っただろうか、俺の足はもう止まってしまっていた。
「はぁはぁ……ふぅ」
 すでに足は止まっているのに、心臓はまだ走っているかのように鼓動を刻んでいるが、俺は一息ついてその場に倒れ込む。隣では大西も息を上げて倒れている。悔しいことに、俺よりは少し余裕はありそうだったが。
 今思うと俺はやったのだ。俺は砂浜まで無事にたどり着いたんだ。
「お疲れ」
 背中から降りた詩織がそう一言ささやいた。この走りはこの一言で報われたに違いない。

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