第四話〜反撃
不意に銃声ではなくカチッカチッと違う音が聞こえてくる。たぶん弾切れなのだろう、足男は何度もカチカチと音を鳴らす。そして、やっと音がやんで安心だと安堵をしていると、いきなり足音が動き出す。数歩の距離だが、しっかりと足音を響かせながら、こちらのドアの正面まで足音を鳴らしてから止まる。
カチャかチャと何か作業をしているような音が目の前のドアの向こうから聞こえてくる。
「ふんふふふーん」
足音は唐突に鼻歌になった。
表情は見えないが、多分おびえて真っ青になっているだろう俺の顔とは、正反対にものすごく上機嫌な顔なんだろうな。
「ふふふーん」
何かの落ちる音がする。鼻歌は、おそらくはダースベイダーのテーマだろうが下手にもほどがあるぞ。
あぁちくしょう俺のほうが上手いのに。なんてことを思いながら静かに思考。
「ふふふーん」
ガチャっと言う何かを差し込む音が聞こえてから一時、静寂が世界を支配する。その、一瞬の静寂は三度のノック音で破られる。
「誰か居ますか?」
鼻歌の緊張感のない、けだるそうな声が聞こえてくる。一応リーダという男の言いつけは守るようだ。
「十数えるよー」
いきなり、鼻歌がそんなことを言い始める。このまま答えなければおそらく俺は、蜂の巣になって向こうに居る壊れたおもちゃたちと同じようになってしまう。
(何とかしなければ何とかしなくちゃ何とか……)
必死に頭を抱えて考えるが何も浮かびやしない。
「きゅぅーはぁちぃーなぁなぁー」
あせりながら考えている間にも、俺の命の砂時計はものすごい勢いで砂が落ちていく。
「ろぉーく…面倒だからぜろ」
「なっ」
いきなり鼻歌はだるそうにカウントを中断。
「バイバイ」
こっちに俺が居ると知ってか知らないが、そんな言葉まで丁寧にかけてくれる。どう考えても俺にはあの暴力の雨はよけられない。
考えた挙句に俺は一つの手段を思いつく。
「待ってください」
扉に張り付いて必死にノックしながら力の限り叫ぶ……フリをする。
「んぁ?」
ふとトイレの隙間から見えた男はもうすでに銃の引き金に指がかかっている状態だった。
「中に居るんです…撃たないで下さい、お願いです」
必死に懇願をしてみる。
「きこえないよーぼくきこえないー」
鼻歌は愉快そうに笑い、再び止めていた銃の引き金の指にゆっくりと力を込める。
「助けてくれ」
男の顔は、俺が助けお求めようと必死に懇願すればするほど、口元を釣り上げていった。なるほど、こいつは狂ってやがる。
「もうおねがいはおしまいですかぁ? 」
声のしなくなった扉を、男は退屈そうに見ながら尋ねる。そんな男の声を無視して俺は考える。
(どうすればこの状況を打開できる?どうしたら生き延びれる?)
「つまんないなぁ」
男が再び銃を構える。
「ヒックッヒック」
俺のの思いついた作戦は簡単なものだった。
「んぁ?」
男が他人の恐怖や絶望を好むのならば、
「グスングスン」
お前の望むように絶望と懇願を見せてやる。
「ないてるのか?いいねぇ」
思った通りに男は、俺のえさに釣られて、絶望と懇願をより近くで味わおうとドアに近づい来る……。
「あれっ?泣き止むの?」
男が近づいたとわかった瞬間に泣くフリを止める。残念ながら俺の演技は高くつくんでな……。
「つまんないなぁ」
再び興味をなくしている男。完璧に油断している様子で、扉の隙間から見える姿はもはや隙だらけだった。 これを好機と俺は、力任せに扉を蹴破る。
「うわぁぁ」
情けない叫び声とともに、男はあっさりと扉の下敷きになって動けなくなる。
さてここからが勝負だ。