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第四十五話〜ようこそアンダーグラウンド!

「よし。信用しよう」
 俺は信用することにした。なぜなら、今の話は十分信頼できる内容だったし、第一小学生高学年がそんな高等な嘘が付けるとも思わない。多分あれは本当に冗談だろう。
 なにより、俺が好きな人間なのだから信じてやりたい。ん?好き?
「雄介。そろそろ戻るよ」
 詩織は既にかけだしており、自分の好きとだと思った自分に考え込む、俺一人だけがその場に残されてしまう。
「好き?」
 つぶやいてから考える。好きってことは、小さい子が好きという事になるよな。小さい子が好きというと俺の頭にはあの言葉しか思い浮かばない。『ロリコン』だ。
 ロリータ・コンプレックス。通称、ロリコン。世間からは、犯罪者予備軍と呼ばれ、偏見の目で見られるこの人種。俺もロリコンなんて人種は死んでしまうといいと思っていた。しかし今、自分がそのロリコンというものになってみて気付いてしまった。ロリコンもそんなに悪いものではない、と。
「ロリコンね……」
 一瞬ロリコンの危険性について考えてみたが、好きなものは好きなんだから仕方が無いと割り切る。そうだ、別にロリコンといっても小さい子なら誰でも言い訳ではない。詩織だからこそいいのだ。そんな言い訳そして自分を正当化しようとするが、俺の中の冷静な思考が俺に言う。
「さようなら、まともな俺。そして、こんにちはロリコンの俺」
 俺がロリコンだと言うのは分かったし、さっさとみんなの場所に戻るとしよう。もうこれ以上このことについては考えたくない。俺は来た道をさっさと歩いていく。心なしか来た時より足取り軽いような気がするのは、やはり悩み事が一つ失くなったからだろうか?
「雄介?」
 なかなかやってこない俺を心配してか、詩織が戻って来た。
「行くよ」
 詩織はおもむろに俺の手をつかむと、その手を引っ張り、走リ始めた。それに笑顔で答えながら、ロリコンも走る。俺はこのままずっと走っていたいとさえ思った。
「ただいま」
 しかし時は無常で、すぐにもとのいたところに戻って来てしまう。しかも、困ったことにそこは物凄い空気が張り詰めていた。俺が感染者といってから放置しっぱなしだったのはどうやらマイナスだったようで、神条さんの目は、かなり危ない。
「感染者め」
 そういうのはもちろん大西だけで、物事をややこしくするのもこいつだけだ。つまりこいつを排除すればどうにかなるんだが今はそうしないでおく。
「うるさい」
 かなりいらついている様子の神条さん。頼むから何もしないでくれよ。
「元はといえばお前がばらすからわるいんだよ」
 そういうと神条さんは詩織につかみ掛かる。
「お前のせいだ」
 掴まれた詩織は特に抵抗もせずに突っ立っている。神条さんが拳を振り上げようとも動かない。それは恐怖なのか諦めなのか、わからない。わからないが、このままだと詩織は確実に殴られる。そう思った俺は無意識のうちに詩織と神条さんの間に体を割り込ませて、拳を受け止めようと手を前に出す。自分が殴られないなんて保障はどこにも無いのに、とっさに出て行ってしまった。俺を突き飛ばしたときのたかしもこんな気分だったんだろうか?
 そんなことを思っている間に、鈍い痛みを感じる。そして、あっけなく俺の意識は泥のように溶けていった。

「おはよう」
 目を開けるとそこには見下ろす形で俺を見ている詩織の顔。よかった、傷はついていないようだ。
「おはよう」
 またひざ枕されていたのか、不甲斐ない。
「顔は大丈夫?」
 言われてから気付いた。頬がジンジンと痛む。なんだよ、拳、受け止めれてないじゃん。恰好がつかないな。
「恰好悪いな」
 詩織を見上げながら苦笑いを浮かべてそういう。笑うときにも頬が痛んだ。しかし、ふと思った、こいつのひざ枕はこれで三度目か。殴られて頬はジンジンと痛むがひざ枕の代価とすればむしろプラスかな。ゆっくりと立ち上がろうとするが、おでこを押さえられる。
「まだ休まないとダメ」
 おでこを押さえたのは詩織で、駄目だと言うジェスチャーをしている。かわいい。しかし、ひざ枕をしている本人が動くなというのだから俺は正直にしたがっておこう。別に俺は膝枕の感覚を長く感じていたいとかそういったものではない。詩織が動くなと言うから動かないだけだ。
「すまない」
 俺は詩織に軽く謝ってゆっくりと目をつぶる。やけに周りが静かだった。

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