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第四十三話〜発覚

「少しいいか」
 声の正体は神条さんだ。
「かまいませんよ」
 一体何なのだろうか?
「あのな」
 そう言うと神条さんは俺の耳元までやって来て、小さな声で伝える。
「魚ありがとう」
 ただの御礼かと胸を撫でた。
 これが金を貸せとかだったらどんなに怖かったか。
「一人でご苦労様だったな。腕まくりまでして」
 確かに俺は腕まくりまをしていたがそこまで突っ掛かるようなこと……ん?
「魚おいしくいただくよ……感染者さん」
「――っ!」
 その声で一瞬気が遠くなる。なんて不覚、なんて不様、なんて馬鹿なんだ。
 俺はもう遅いはずなのに、急いで袖を下ろして痕を隠す。
 神条さんは何食わぬ顔で魚を食べている。あたかも全然気にしてないといったふうな素振りだ。今ならまだ間に合うはずだ。こいつにしかばれていないからこいつを消せば何とかなるはず。そんな恐ろしいことも考えてみるが、これは最後の手段に取っておこう。
「雄介? また怖い顔してるよ」
 詩織はまた心配そうに俺を覗き込む。
「あぁ、大丈夫だよ。心配させてごめんよ」
 結局はいつものように詩織の頭を撫でて解決。それがいつもだった。
「神条さん」
 悲しいことに今日はいつも通りには終わらなかった。頭を撫でられていた詩織が神条さんに向けて冷たい一言を浴びせる。
「そんなおっかない声を出してどうしたのかな」
 神条さんはやれやれといったように詩織の言葉に耳を傾けてくれる。わりと友好的な態度で。
 しかし、詩織はまったく友好的な態度ではなく、むしろ敵対するような態度で神条さんに発言する。
「あなた感染してますね」

 空気が凍るとはこういうような状態を言うのだろうか?
 詩織の発言で、俺が、神条さんが、大西が、海人さんが動きを止めた。同時に全員が神条さんを見る。これで四度目だ。流石にもう偶然とは言いにくいだろう。俺は真実を知らなくてはいけない。

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