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第四十一話〜水

「さて、待たせたな」
 俺が立ち上がり、先に行こうと歩き出すとすぐ後ろには詩織がついて来ていたが、既におなじみの光景だろう。
「行きましょうか」
 海人さんがそれに続く。
「やっとか」
 大西はやれやれと立ち上がりついてくる。
 神条さんはまた、音もなく俺達の後ろにいた。
「いつの間に居たんだと思う。詩織」
「人間じゃないんじゃないの?あれ」
「そうかもな」
 俺達はくすりと笑い合ってから歩き出す。

 歩き出してから数時間。
 景色は一向に変わる気配すらない。
「お腹空いた」
 詩織が隣で呟いている。
 確かに、食べ物を胃に入れたのは、二日前の俺が採って来た果物が最後だったような気がする。
「詩織」
 俺はポケットから干し肉を取り出して詩織に与える。
「悪いよ、こんなの」
「いいさ」
 詩織の口に無理矢理押し込んでやると、詩織は申し訳なさそうに口を動かす。
「おいしい」
 詩織はニッコリと笑ってくれる。
「まぁ蛇の肉なんだがな」
 俺が笑いを堪えながら詩織に教えてやると、詩織は目を白黒させて驚いた後で、「何て物食べさせるの」と、言ってポカポカという擬音が出そうなパンチを俺にする。
 はは、全く痛くねえや。
「後は少しだけ果物の残りとコロリーメイトがあるから遠慮なく言ってくれ」
 やっぱり備えあればなんとやらだな。

 わらっていると何かの音を耳にする。
「ん?」
 やっぱり近くでなにか音がする。
 これは……?。
「水が近くにあるぞ!」
 俺が言うと、前を歩いていた神条さんが驚くような速度で動き出した。
 やはり人間ではないのか?
「川ですよ」
 嬉しそうな海人さんの声が聞こえたのは神条さんか動き出した方向から真逆だった。
 やっぱり人間だろうな、神条さんは。
「雄介? 行かないの?」
 詩織が声の方向へと俺の袖を引っ張る。
 俺は「わかったよ」と言いながら引っ張られたまま声の方向に進む。
 連れられること数秒で川が見えた。
「水ー」
 詩織は嬉しそうに水に向かって走っていく。
 こけなけりゃいいが。
「雄介早くー」
 やれやれ、どうやらおよびのようだ。
 俺は靴と靴下を脱ぎ、ズボンをまくり、上着も脱いで袖をまくる。
「今行きますよ」
 ゆっくりと歩いて川に向かう俺とは対象的に、詩織は既に靴などを脱いで水に入っていた。
「全く……」
 俺は嘆息を漏らしながら、詩織が脱ぎ散らかしている靴やら上着を回収して、俺の服の横に畳んで置く。
 いくら小さいといっても、女の子だという自覚ぐらい持ってほしい。
 再び川を見ると、海人さんと上条さん、そして、大西までが楽しそうな声を上げて詩織と遊んでいた。
「全く……」
 本当に大人か、この人達。
「雄介さんは来ないんですか?」
 海人さんはこっちに手招きをしている。
「全く」
 本日三度目の『全く』を口にしながら俺も大人げない大人になった。

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