第四十話〜理由
「さぁ、一思いにやってくれ」父は抵抗をせず最後の時を待つ。
大西が引き金に力を込める。
引き金を引ききると同時に、サイレンサーによって吸収された銃の音。そして、父の足から血が出る。
「なに?」
「そんなに簡単に殺す訳無いじゃないですか」
大西はニッコリと笑い、父の足を手を腰を少しづつ撃ち抜いていく。
撃ち抜かれるたびに父の体は跳ねて苦悶の表情を浮かべる。
はらわたが煮え繰り返る。
目の前で楽しそうに父を惨殺しているこいつを同じ目に合わせてやりたいと呪う。
やがて父は動かなくなってしまう。
「さて、あの人はああ言っていたけど、ガキを始末するか」
大西は口笛を吹きながら俺の捜索を始めようとしたが、その足は前には進まなかった。
「息子に手を出すのは許さん」
何故なら先程まで事切れたと思っていた父がゆらりと立ち上がり、両手を広げて大西の進行を妨げていたからである。
「し、死ねよ」
大西は何度も引き金を引いて父を撃つが、父は一行に倒れない。
「な、なんなんだよお前は!」
大西の顔は恐怖に歪み、もはや腰が引けてしまっている。
「貴様は許さない。必ず地獄の果てまで追い掛けてやる」
父が放つ呪詛に完璧に参った大西は一目散に逃げていく。
大西が去ったのを確認すると同時に父は地面に倒れる。
「父さん!」
クローゼットから涙で顔をグシャグシャにした俺が走り出してくる。
「父さん! 父さん!」
何度も倒れた父を揺さぶる俺。
「雄介……よく聞け」
父はかすれ声で俺に話しかける。
「今、救急車を呼ぶよ」
駆け出そうとする俺の足を父が掴む。
「よく聞くんだ」
そう言うと父は俺の肩をつかんでいる。だがしかし、俺はそんな必死な父を無視して庭を指差す。
「か、火事だ!」
おそらく証拠を消すために大西が火を放ったのだろう。
俺は慌てふためいてしまっている。
「いいか、雄介」
それでも父は俺に語りかける。
「お前の隠れていたクローゼットに黒いビデオテープが隠してある。そいつを持って俺の会社まで行くんだ。そしたら山田という奴を探してテープを渡せ」
「それより早く逃げないと」
俺は父を引っ張り、その場から逃げようとしている。
「いいからテープを」
父の必死の訴えに俺は泣く泣くテープを探す。
「あったよ」
俺が涙目でテープを持っていくと父は血まみれの手で俺の頭を優しく撫でて、
「ごめんな」
と言って動かなくなった。
「父さん?」
父を揺さぶっているが無駄だ。
何故ならもう死んでいるからだ……。
「うわぁぁぁ」
その場に立ち尽くして泣きわめく俺だが、俺が泣きわめいている間にも火は近づいてくる。
「テープ……」
テープを届けろ。この一言を思い出してやっと家から脱出し始める俺。
近くでは消防車のサイレンが聞こえる。
俺はそのサイレンに負けないくらいの大きな声で泣いていた。
「君大丈夫か」
消防士の声に安堵したのか俺は力無く倒れる。
これで夢は終わりというわけか。
そして俺の意識も途絶えた。
目を開けると景色が霞んでいた。
「大丈夫?」
「あぁ多分な」
夢から覚めて始めに出会ったのはやはり詩織だった。
「泣いてるの?」
「ん?」
言われて始めて気付いた。
俺は泣いているようだ、そりゃ景色が霞むわけた。
「大丈夫ですか雄介君」
次いで声をかけてくれたのは海人さんで、
「さっさとしろよ」
次には大西に悪態をつかれた。
全てを思い出した今、お前を許すわけにはいかない。
まぁ始めから許す気等は毛頭も持ち合わせていないし、それどころか俺の復讐の炎はさらに燃え上がっていた。
さてどうやって復讐してやろうか。