第三十四話〜アリバイ工作
「ただいま」玄関を開けて家に入ると、母がおかえりと出迎えてくれる。
僕はすぐに母から今日の晩御飯を聞き出した僕は何時ものように机に向かう。確か今日は難しい宿題が出ていたはずだ。たぶん困った友人Aから救難信号が届きそうだからなるべく早めに仕上げるか。
僕は鉛筆を片手に問題と格闘を開始する。しかし、案外簡単で絶望した。どこが難しいのだろう。
「ご飯よー」
台所から聞こえる母の声で鉛筆を置いてノートを閉じる。
今日のご飯はアレだ。
「今日はカレーよ」
母が嬉しそうに鍋の底をかき混ぜながら器に盛っていく。
おたまからは黄色い、どろっとした液体の中にジャガ芋やら人参やらを沢山含んだカレーがよそられていく。
カレー独特のスパイシーな香りとそのフォルムに、僕のお腹はエンプティを示し、僕は急いで椅子に座り、目の前の黄色い海を見つめる。口が潤い、口からよだれがこぼれそうになる。
「いただきます」
両手を合わせて黄色い海を破壊しにかかる。
口に入れた瞬間に広がるスパイスの香とうま味に僕は酔いしれる。
あっと言う間に一杯を完食し二杯目に入る。
母は嬉しそうにカレーを食べる僕を見ていて、僕が「お代わり」と言うと笑顔でよそってくれた。
「美味しかった」
お腹がいっぱいになると眠くなる。何故なのだろうか?とりあえずご飯を食べ終わった僕は、そのままお風呂に入って寝てしまう。
今日はあの悪夢は見たくないな。
朝、目が覚めるとカレーの香が鼻孔を突いた。
食卓には当たり前かのようにカレーが並んでいる。別に嫌ではない。
「いただきます」
昨日同様、ぺろりと完食して学校にいく準備をする途中で、今日はたかしはなにをして楽しませてくれるのかな?なんて思ってみたりする。
「行ってくる」
「いってきまーす」
父が行ってきますをして僕が続く。
実にいつも通りで平和な朝だ。
いつものように父と話をしてわかれる。
「おはよう」
いつも通り挨拶をする。
「おはようたかし君」
まだあの遊びは続いているようで、まだ僕は『たかし』らしい。
「そんな浮かない顔をしてどうしたんだい」
何故か俯き加減のたかしに疑問を投げかける。
「みんなおかしいんだ」
たかしは眉をひそめてひそひそと話す。
「少なくとも僕は普通だよ」
胸をはってたかしに言ってやると、たかしは嬉しそうに「そうだね」といって頷いた。
何時ものように授業を受け、何時ものように過ごす。
退屈過ぎてヘドが出る。
「起立」
本日最後の委員長の『礼』を聞き、今日も都合よく大きな荷物を背負った可愛そうなおばあさんを探すために、たかしと町を散策する。
「あっ」
歩き始めて数分、たかしが横断歩道を指差す。
「まさか本当にいるとは」
確かに見つかってほしかったけど、期待はしていなかったのに、運命と言うやつだろうか?
「おばあさん。お助けします」
たかしが一目散にかけて行き、おばあさんに話しかける。
僕にはそんな思いついたことをすぐに行動に移すようなことは出来ないな。
そうやって僕が見ている間にもたかしは荷物を受け取って歩き始めた。おばあさんはとても嬉しそうだ。
しかし、対照的にたかしの顔は辛そうだ。
「まったく」
僕はそんな光景を見ながら苦笑いをしてたかしの元に走る。