第二話〜電撃
「今日こそは勝って見せるから覚悟しておけよ」そんな言葉を聴いたのが遠い昔のように感じる今日この頃、
「うーん」
前田が頭を抱えて顔をゆがませながら悩み始めてから、すでに10分以上は経っていた。
あの、勇ましい宣戦布告からは15分しか経っていなかった。
「あー」
前田はさっきより深く頭を抱え込んで、ひたすらゾンビのようにうめいているが、俺は特に冷やかすわけでもなく読書に集中をする。
冷やかさないのはそっちのほうが静かでいいからだ。
「くそー」
もう悩み始めて20分が経った、もちろん一手も進んでいない。
読書も終わりを迎えてきている。
「ちょっとトイレ」
流石に長い間このままはつらいので俺は席を立ち、悩める前田に一言言ってトイレに向かおうとする。
「大きい方か?」
前田はうめくのをやめて話しかけてくる。
俺はため息を一つ残して首を横に振る。
「下痢かよ」
俺がまた首を横に振ると前田は、興味がなくなったようでまた悩み始める。
「まぁがんばれよ」
そんな悩める友人に、一言かけて俺は、トイレに去っていく。
「おまえがな」
前田は、俺の背中にそう投げかけてから、こっちをみないで手をうっとうしそうに振っている。
そんな前田を無視して疑問。
(いったい何をがんばれというんだ前田)
特に何も思わずに、トイレに向かって歩いていると、さまざまな雑音が飛び交う中でパラパラと本をめくる音が耳に引っかかる。
そんな音が耳に引っかかったのはさっきまで自分が本を読んでいたからだろうかと思いながらもふと、音のするほうに首を向けると、そこには小学校高学年くらいの少女がが真剣な目付きでその細い体には不釣合いな分厚い本を抱えていた。
しかし、それは俺みたいにサバイバルブックなんてスケールの小さい物ではなく、もっと難しそうな、日本語では書かれていないだろうスケールの大きそうな本を読んでいる。
「ん?」
じっとみつめる俺の視線に少女は気付いのだろうか、視線を本からおもむろに俺に切り替えてじっと見つめてくる。
(やばい)
何がやばいのかわからないが、とりあえずやばい気がした。
絡み合う視線の中で、少女はふっと俺に笑みこぼして再び本に視線の移してしまう。
その笑顔は本当に俺にむけられたものであるかはわからない、むしろそれが悪意のこもったものかもしれない。
しかし、その少女の笑顔は、前田の笑顔とは違ってただ単純にきれいで、まさに一つの芸術品のように見えた。
「……」
そんな少女の笑顔に、体を動かしている微弱な電流が、大きな電流になったようなショックを受けて口をあけて放心している俺へと注がれる目線は痛く、俺は早々にトイレに向かって今度は大またで歩きだす。