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第二十七話〜スイカだ!熊だ!ぶっ殺せ!

「弾切れか」
 男は持っていた銃の弾倉が空なのを確認してから銃を放り投げる。
「さて、この際感染者でもいいか」
 男はいやらしく笑い女を物色する。
 しかし、今度は雰囲気が違っていた。確かに怯える生徒は多かったが、数人の生徒はその目に殺意の炎を燃やしている。
 男が下品な笑いを浮かべたまま一人の女生徒に手を伸ばす。だが、その手は女生徒に届くことはなかった。
「いい加減にしてもらおうか」
 理由は簡単。男の手が止められたからである。男の手を止めたのは男子生徒の一人で、しっかりと男の手首をつかんでいる。
 見れば、何人かの生徒は目をぎらつかせながら立ち上り始める。
「な、何だお前らやろうってのかよ」
 男は凄んでみるものの生徒たちは全く怯む気配はない。次々と男の周りを囲むように生徒たちが群がり始める。男はしきりに何かを叫んでいたがよくわからない。
 可哀相に男はまだ気付いていないのだ。
「お前ら逆らうと殺……」
 男は自分の手元を見て絶句する。
 やっと気付いたようだ。自分が今まで示して来た力の印である、銃がもう無いと言うことを。
「畜生ぉぉぉ」
 それはさながら蟻の大群が餌に群がるようだった。男に一斉に生徒たちが群がり、何かを蹴る音や途切れ途切れに悲鳴が聞こえてくる。
 やっぱりこいつも人を殺めた罰だろうな。そして、男まともに死ねるか目をつぶり考えながら、俺は一人ほくそ笑む。答えはわかっている。俺も男もまともに死ねない。
 悲鳴も打撃音も聞こえなくなり、生徒たちの円陣が解けると中には真っ赤なボロ雑巾が転がっていた。
「やったな」
 生徒たちは喜びあっている様子で人一人殺したと言うのに笑顔だ。
「いてぇ」
 喜んでいたはずの生徒たちはいっせいに動きを止めて、全員の目がいきなり聞こえた音のほうに向けられる。
 失念していた。男は一人ではなく二人だった。
 男はゆっくり立ち上がり銃を拾うと、周りを見渡し、血まみれのぼろ雑巾を発見し大きく目を開くと、すぐに状況を把握した様子で、銃を持つ手が震えている。
「貴様ら」
 男は銃を生徒たちに向け、引き金に指をかける。
「うわぁぁ」
 一人の生徒が悲鳴を上げて走って逃げる。不思議なことに誰も、男の銃を手逃げ出したのではないようで、数人の生徒も皆同じ方向を指しながら逃げていく。
 指し示されるは男ではなく男の後ろ。
 その指差す方向をたどっていくと、やたら毛むくじゃらの四本足であるく蜂蜜が大好きなあれが見えた。
「熊?」
 確かにこれだけ雄大な自然が広がっているなら、熊ぐらいは生息してそうだが、なんてグッドタイミングで出てくるんだ。
「な、なんなんだよ」
 男は振り向きざまに銃を乱射する。
 しかし、男はかなり焦っていたようで熊に当たったのは5〜6発程度だった。しかも全部が全部急所を外している。
「なんで!なんでだよ」
 男は叫びながら弾ので失くなった銃の引き金を何度もカチャカチャ引いている。
 なんとも滑稽な姿だ。
「糞っ! 糞っ!」
 とうとう銃を諦めたようで熊に銃を投げ付ける。
 銃は熊に当りはしていたがダメージはないようで、熊はそのまま腕を振りかぶる。
 そして、次の瞬間にはスイカが破裂した。いや、スイカと言うのは語弊があるだろう。しかし、本当にスイカ割の時のスイカのように弾けた。
 周りに真っ赤な果肉をばらまきながらスイカが落ちていく、そんなバラバラになった果肉の一つが俺の足元にも飛んでくる。
 先程の銃の男は首から真っ赤な噴水を噴き出しながらただずんでいる。首から上は勿論ない。
 そして男はいきなり倒れて、真っ赤な水溜まりを作る。
 無論、男は某ヒーローのように頭の変えはない。故に彼は死んだと言うことになる。
 男の真っ赤な鮮血を浴び、紅く染まった熊は満足そうに微笑んだように見えた。
 そして、首を上げると次の獲物を探し始める。
 俺と熊が目が合う。
 俺は死を覚悟した。

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