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第二十五話〜自白

「見当たらないんですが?」
 教師の質問に答えのはやっぱり田中さんで、落胆のため息を一つしてから告げる。
「ですから、『居た』んです」
 その通り。『居る』ではなく『居た』なのだ。つまり過去形。
 それが指す意味は二つで、立ち去ったか死んだ。で、もちろんこの場合は後者である。
「では今は何処に?」
 しかし、教師は二つの可能性の内の途中で別れてしまった。を前提に質問を投げ掛ける。
「さぁ?もし、天国なんてもんがあって、そいつが空の上に有るとしたら、今頃お空の上じゃないですか?」
 今度は怒気を孕んだため息の後に話す。
 すると、その言葉で悟ったようで教師は肩をうなだれる。
 何人かの頭の良い生徒は同じように肩をうなだれ、たいていの生徒は首を傾げている。
「死んだんですか……」
 落胆のため息と同時に二つのうちのもう一つ死んだ。と言うのをやっと知る。
「ですがどうして」
 教師は死んだと言うのを知ったがまだ認めてはいないようで、しつこく食い下がる。
「感染病でした」
「しかし、感染してもすぐに死ぬと言うわけでは」
「知りません」
 だんだん田中さんの返答が文章から単語へと移り変わっている。
 流石に田中さんも追い出しました。とは言いにくいのだろう。
「武内はどこです」
 教師もかなり疲れているのだろう。
 この人数を一人で連れているのだからそれは体にとってかなりの重労働だと思うし、勿論精神はズタボロだろう。
 そんな男の口から出るのは馬鹿みたいにでかい声と、何度も繰り返す言葉のみで、もはややり取りは不毛。
「どこだ」
 でかい声で叫びながら田中さんの肩を掴んでガクガクと揺らし始める。
 すると、田中さんはその手を弾いて、好きにしてくれと言わんばかりに両手を肩まで挙げて去っていく。
「なあ」
 ゾンビみたいにふらふらと俺の方にやってくる。やれやれ次は俺か。
「武内は死んだのよ」
 いきなりの叫び声に周りは静寂に包まれる。
 見ればさっきまで小さくなって震えていたはずの恭子さんが立ち上がっている。
「証拠でもあるのかい」
 教師は虚ろな目付きで恭子さんに問うと恭子さんは不気味に口を吊り上げてケタケタと壊れたように笑い、真実を語る。
「だって私が殺し殺した」
「嘘です」
「残念ながら本当に殺しました。また来週おこしください」
「ふざけているのか」
 不毛な言い争いは続き恭子さんはどんどんと壊れていく。
「武内……」
 これ以上は無駄だと悟ったのだろうか、教師は膝を地面について両手で顔を覆い武内の死をやっと認知したようすで、後ろにいた生徒たちも絶望にうちひしがれていた。
「それよりあんた、この人数の感染者を連れて、たかが生徒一人を探していたわけじゃないよな」
 会話は成立するかわからないが気になったので聞いてみた。
 しかし、反応は教師ではなく大西のほうが早かった。
「感染者……だと……」
 一瞬にして大西は男たちから身を離した。あぁ、説明するの忘れてた。
「私たちの目的ですか?それは逃走ですよ」
 教師は幽霊みたいにふらつきながら答える。
「感染者は失せろ」
 大西からは厳しい言葉が飛ぶ。そんなに命が惜しいか。
「わかりましたよ。どうせ長い間場所に居るのは危険ですからね。それに……殺人犯と居たら殺されるかもしれません」
 教師は恭子さんを睨むと笑いながら言う。
「さて行きましょうか」 
 そういいながら大移動を始める。
「待ってよ。何から逃げてるの」
「親切なお嬢ちゃんには教えてあげよう」
 詩織はお嬢ちゃんと呼ばれてむすっとしていたが耳元で何かを囁かれると、急いで俺の方にかけて来た。
「どうしたんだい?お嬢ちゃ」
 茶化そうとしたら思い切りすねを蹴られた。
 何故あいつは蹴らなかったのに俺は蹴るんだ。しかも目が怖い。
 詩織は痛がってすねを摩るためにしゃがんだ俺の耳元に顔を寄せる。
 しゃがんでほしいなら最初から言えば良いのに。
 そして詩織は小さな声でしっかりと俺の耳元でささやいた。
「ハイジャック犯が追ってくる」
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