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第二十四話〜遭遇

 近くではまだ、恭子さんをどうするかで言い争っている。
 たかが模様が浮かび出たぐらいで五月蝿い奴らだ。
 あれが出たから死ぬわけでもなければ、あれが感染するとは言い難い。
 まぁ、俺には関係のないことなので、さっさと解決をしてほしいところだ。
「暑いわ」
 隣の詩織が胸元をパタパタと扇ぎならがら俺に訴えかける。
「俺にどうしろと?」
 俺にはどうすることもできないので仕方ない。
 しかし、暑い、詩織の言う通り暑い。
 暑ければ汗が出る。汗が出れば服に染み込む。
 現に、俺の着ていているシャツは始め着ていたときとは色が異なる。
 もっとも、俺の汗の原因は暑さだけではないのだが。
「暑いよー」
 詩織は着ていたシャツを捲くり上げて、日なたでぐったりとしている。
 俺も自分のシャツに手をかけて袖を捲くる。
 しかし、そこで問題が発生する。
 驚きで一瞬思考が停止するがすぐに行動を起こす。
 俺の思考を停止させた問題とは、そこまで一大事だったのだ。
「くそっ」
 急いで袖を元に戻して周りを確認して一息つく。
 まだ誰にも見られていないようだ。
「どうしたの雄介?」
 詩織は目ざとく俺が袖を上げようとして、急いで下ろしたのを見ていたのだろうか、首を傾げて聞いてくるが、そんな詩織には、なんでもないよと声をかけて離れる。

「困った」
 皆と離れた所で腕をまくり、二の腕の部分を見ると、そこにはくっきりとバーコードのような模様が浮かび上がっていた。
 全く困ったものだ、まさか俺が感染するなんてな。
 そんな感傷に浸っていると、前方のことについて全く考えていないことに後悔する。
 何故なら今、俺の目の前にはいつかあったような気がする見覚えがあるような男と、今は亡き武内と同じような制服を着たやつらがいたからだ。
 俺が急いで腰のナイフに手を伸ばすと男は急いで敵意がないことを必死に説明して来た。
 そこまで必死にされたら延ばした手を引っ込める以外に道はなさそうだ。

「いやーよかったよかった」
 何がよかったのかはわからないが、よれよれのスーツを来た先ほどの男が安堵の声を漏らしている。
「貴方達、全員感染してるわね」
 いきなりの後ろからの鋭い声に、一瞬ギクリとするが、俺に向けられた言葉ではないとわかって安心する。
 しかし、まただ、詩織が感染してるなんて言い始めるのは。
 怪しくはあるが、今までのことを考えてみると今回も本当なんだろう。
 その証拠に生徒達は俯いてなにも言わなくなってしまう。
 しかし、何故詩織は感染を見破れるのか。
 ただの偶然が三度続いただけなのだろうか。それとも超能力者なのか?
 いや、疑うのは良くない。
 きっと偶然が奇跡的に三回続いただけなんだ。
 そうに違いない。
「実は私以外は全員……」
 よれよれのスーツを着た男は悔しそうに唇を噛んでいる。
「でわ私達はこれで」
 男は、感染した人間等置いてくれるはずがない。と、諦めたようすで男が立ち去る。
 すると、それにならって制服を着た集団は下を向いてとぼとぼと歩き始める。
「待ちなさいよ」
 詩織がまた声をかける。
 男はビクッと驚いた様子を見せてゆっくりと振り返る。
「別に消えろとは言ってないわよ」
「は?」
 男は理解できないと言った様子で詩織を見ている。
「べつに残っててもいいわよ」
 その声と同時に、そこにいた奴らは目を輝かせると、全員近くの奴らと顔を見合わせていきなり声を上げて喜び始めた。
「ありがとうございます。ありがとう……」
 スーツの男はそう言うと俺の手を取り啜り泣いていた。
「礼なら俺じゃなくてあい……」
 見ると当たり前のように詩織の姿はなかった。
 くそ、やられた。後は俺に世話を任せると言うのかよ、あの悪魔め。
「ありがとう」
 相変わらず男は啜り泣きながら俺の手を痛いほどにぎりしめて上下に振っている。
「雄介君、騒がしいようだけどどうかしたのかい?」
 言い争いをしていたはずの海人さんがひょこりと現れる。
 この人の量を見てなにかを言おうとしていたが、酸欠になった魚のように口をパクパクさせるだけで何も言うことはなかった。
「どうしたんだ」
 ぞろぞろと茂みの向こうから出て来たと思えばば、すぐに酸欠の魚が増えていく。
「どうも。私はこの子達の教師で名前を」
「名前はいい」
 途中で勝手に自己紹介をしようとするスーツの男の言葉を遮る。
 これ以上余計な仲間意識を持ってほしくない。
「ところで先生。何でこんなところに?」
「貴方は、大西さんじゃないですか? まさかこんなところで合えるとは」
 教師は話し掛けられて始めて大西の存在に気付いたようで歓喜の声を上げる。
 また、後ろにいた生徒たちも同様だった。
「ファンなんですよー」
 流石タレント政治家。
 いらついていても表情には出さない。
「ところで何故こんなところに?」
 大西が再度質問を開始する。
「私たちは生徒を探しています」
 男は真剣な顔で話す。
「そうですか。見つかるといいですね」
 大西はもう興味を無くしたようで、そそくさとさっていく。
「武内。武内賢太と言う奴を知りませんか?」
 俺を含む七人は武内と言うワードにかなりの反応を示してしまう。
 特に、恭子さんなんかはひどいもので、小さく縮まった体をさらに小さくして震えていた。
「あー武内ねー」
 去ったはずの大西が戻って来ていたが、いくら関係がないといっても殺すのに賛成した手前に言葉を濁す。
 いつもなら平然と嘘をつくだろうに今回はつかなかったのは、おそらく俺達の目があるからだろう。
 流石腐っても政治家。嘘をつくタイミングをわかっていらっしゃる。
「武内という子なら、私たちと居ましたよ」
 口を開いたのは詩織でも海人さんでもなく田中さんだった。
「よかった。で?武内はどこです?」
 教師の男は嬉しそうに周りを見回して故人を探す。
 生徒たちも故人を探す。まったく、いたたまれないな。

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