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第十五話〜奪い合い

 ぐぅー

 歩いていると、唐突にかわいいお腹の音が聞こえる。
「ずっと食べてないからつい……」
 その音の発信源は恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「いやはや、お恥かしい」
 海人さんは頭をポリポリと掻いていた。体に似合わず可愛らしいおなかの音だな。
「そういえば腹減ったー」
 思い出したように武内が騒ぎ始めた。
「腹減った腹減ったー」
 駄々っ子のように騒ぎだす。五月蝿い奴だ。
 こんな小さな詩織だって我慢しているというのに。
「武内食い物持ってるか?」
 期待はしていないが聞いてみる。
「無い」
 武内は胸をはって答えた。
「つまりそう言うことだ。諦めろ武内」
 ため息をつきながらあきらめるように諭してやる。
「いーやーだー腹減った腹減ったー」
 それでもやっぱり駄々っ子のように騒ぎ続ける。
 全員がその時思っただろう。
「このハゲ欝陶しい」と。
「誰か何か持ってないのー」
 武内は空気も読まないでひたすら叫び続ける。
「あの……少しなら」
 最後尾で歩いていたいきなり田中さんはそういうとポケットを探り始めた。
 居たんですね……気づかなかった。
「ナイス田中さん」
 武内は飛び上がって喜んでいる。子供かよこいつは。
「いいんですか田中さん」
 海人さんは心配そうにたずねる。
「気にしないでください海人さん」
 こいつも馬鹿だな、誰にも言わなければ自分は生きながらえらるというのにわざわざそれを放棄するのか。
「めーしめーし」
 武内はいつの間にかその場所に座り込み、そこらで拾ったであろう木の棒で地面をたたいている。
「私が持っているのはこれです」
 田中さんがポケットから食料を取り出すと同時に全員が言葉を失った。
 なぜなら、目の前に出された食料のほとんどは業界では知らない人がいないほどの栄養価だけ無駄に高い糞まずいジャンクフードと数量のカンパンだったからである。
 俺も怖いもの見たさみたいなもので食べてみたことがあるがあれは食えたものではなかったと思う。
「お、俺カンパンな」
 そんな状況下で武内が一番にカンパンをかっさらう。全くもって空気が読めない奴だ。
「武内君ここは話し合いで……」
 海人さんが武内に話しかけるが武内の口はもごもごと動いており、すでに手遅れのようだった。状況的な意味と人間的な意味で。

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