第十二話〜瞳
全員に顔を背けられてものすごい不安を感じた俺だったがふとした事に気づく。それは、些細なことではあったがこの不安を解消する十分なものであった。全員顔を背けているのではなく、全員一点を見ていただけだったのだ。
「この子が言っていたんだよ」
そう言って海人さんが詩織を指す。そうだったのか……なぞは解けた。
なにも全員が俺を爆弾を用意していたから墜落すると知ってパラシュートで逃げたなんて疑っていたわけではなく、ただ聞いた事を確認したみたいだけのようだ。深読みのしすぎはよくないな。
「エンジンから火が出ていたので墜落すると思ってパラシュートで逃げました」
そうとわかれば別に心理戦は必要ないと俺は本当のことを話す。
「そうか」
話したというのに特に興味を示してくれずになぜか聞き流したように扱われる。心外だ。
「本題はここからだよ。君はパラシュートで落ちる途中に近くに島を見なかったかね?」
海人さんは少し前のめりになって俺に聞いてくる。顔が少し怖い。
しかしなるほど、多分こっちが本命だったのだろう。全員が同じように俺の次の言葉を持っている。
だが、俺の答えはNOだ。残念ながらみなさんの期待に応えることはできそうに無い。
俺が首を横に振ると全員がため息をついて一気に暗い雰囲気になってしまう。
「そうか」
「すいません」
なぜか猛烈に謝罪したくなる気分になる空気だ。
「君が謝ることじゃないさ」
そう言いながらも海人さんはがっくりと肩をうなだれた。
それからはしばらくは何もないゆったりとしたと時が流れたが、それも一瞬にして幻想へと変わった。
「ごほっごほっ」
たくさんの人間が集まっているあたりで一人の女性が倒れた。
女性の腕にはバーコードのような痕ができている。
「これでちょうど四十人目か……」
海人さんは何を数えているか知らないがそう言う。
見ていると誰も彼も女性を助けるわけではなく逆に倒れた女性から人が遠ざかっていく。
俺も別に助けに以降なんて考えるお人よしではないが別に遠ざかることはしないだろう。
しかし、それはまるで近づくと危ないものがそこにいるかのように皆離れている。
「何なんですか?」
不思議に思って聞いてみる。
「よくわからないが、たぶん病気だ」
海人さんは深刻な顔をして教えてくれる。
「病気ですか?」
風邪か何かなんだろうか?
「そうだ、体のどらからにバーコードのような跡が出る」
「バーコードのような跡?」
俺は数時間前に見たポケットの中にしまいこんでいるナイフの元所有者のことを思い浮かべた。
確かにあいつの腹部にもそんなものがあったような気がする。
「確か最初の感染者は前田とか言う名前だったかな?」
海人さんからは疎ましそうな声が漏れる。
「前田……ですか」
やっぱり感染していたか。
「最初はただ単に模様が出ただけだと思っていたんだがね、回りの人間にもどんどん広がっていったんだよ」
それは間違いなく感染症だろうな。
「しかもこの病気は困ったことに誰も見たことが無い上に治療法がわからないんだよ」
「え?」
知慮法がないという言葉に愕然とする。
確かに、前田が死んでいたことやこの状況を見れは推測はできるが現実を突きつけられるのはまた違った感覚だ。
「そもそも感染しているのかも本人が隠せてしまう場所なら隠されたらわからないんだがね」
「そうなんですか……」
確かに皆に嫌われるというのならば隠す人間も居るだろう。
「大丈夫か美穂」
倒れた女性の周りで動きがあった。