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第十一話〜発見

「違う」
 肌が焦げている女性。片腕のなくなっている女性。
「これも違う」
 服が血まみれになっている男性。体がおかしな方向に曲がっている男性。
「これも……」
 ずらりと並ぶ死体の海の中を歩いていく中で、やたらときれいに死んでいた死体を見て俺の足は止まる。
「よぉ久しぶり」
 ふとその死体の前で足がとまる。
 周りとは異なって特におかしな部分も無く、血でまみれたわけでもない旧友の姿を見て、まだ生きているのではないだろうかとさえ思ってしまう。
しかし、そこにあったのは間違いなく前田の死体だった。
 前田の死体をボーっと眺めていると、ふと前田がナイフを隠し持ってたことを思い出し、前田の服を探り始める。
 ナイフを探している最中、腹部ににバーコードのような跡ができているのを見つけたが時に気にしなかった。あいつは刺青なんて入れていたのか。
「借りるぜ前田」
 前田の腰にかかっていた銀に光るナイフを自分の腰にかけて前田からはなれていく。
「そうだそうだ」
 思い出したように前田の元に戻って、最後に一言残してやる。
「二万はチャラな、渡す相手がいないんだから仕方ないよな」
 俺は、再び議員の死体を確認する作業に戻った。
 しかし、そんな苦労もむなしくいくら探しても議員の死体は確認できなかった。
「海人さん」
 多分そういう名前だっただろう男性に声をかける。
「なんだい?」
 にっこりと笑ってこっちを向いてくれる。
「死体はあれで全部ですか?」
「そうだよ、人でも探してるのかい?」
 これは首をかしげながら何か力になれないかと考えているに違いない。
「そんなところです」
「ならよかったじゃないか、ここに居ないということはその人はきっと生きているよ」
 海人さんは本当に心からそう思ったのだろう。
 しかし、俺の探している人間というのは俺にとって生きているとよくない人間なのだ。
「そうですね」
 俺は、笑顔を浮かべながらも奥歯を思いっきりかみ締めた。
 もしかしたら笑顔が引きつっていたかもしれない。
 そして、いらついたときによくやってしまう癖でつめを噛みながらその場を去った。
「雄介、お帰り」
 何故か詩織の居る場所に帰ってきてしまった俺は、何故ここにきたのかとまた苛立ちつめを噛む。
「なにかいやなことでもあったの?」
 詩織が心配そうに顔を覗き込んでくる。相当よくない顔をしているんだろう。
「なんでもないんだ」
 何とか苛立ちを落ち着かせて引きつった笑顔で答える。
「そう?」
 詩織は若干心配している様子だったが、聞いても教えてくれないとあきらめたみたいで案外すんなりと身を引いた。
「ねぇ今度はこれからどうするの?」
 すんなりと身を引いてくれたと思ったら俺の勘違いだったようだ。
 仕方なく俺達二人は人の集まっている場所とは少し離れた場所でこれからについてまた考えることにする。
「どうしたい?」
 今度は逆に聞いてみると詩織は、
「特に思いつかないから考えて」
 なんて普通に言いやがった。俺は焚き火の前でそうしたようにまたあぐらをかき、手を組んでその上にあごを乗せて考え事にふける。
 あいつが生きているということは俺の計画は失敗したということだ。
 しかも爆発は十分じゃなかった。
 正直あのハイジャック犯の爆弾でのエンジン爆破がなければ復讐ところか墜落さえもなかっただろう。
 何が「計 画 通 り」だよ。何一つ計画通りになっていない。すべて失敗した。またつめを噛む。
「となりいいですか?」
「ご自由に」
 いきなりの言葉に適当に返事をすると、俺の周りにはいつの間にか俺と詩織を含めて八人ほどが集まってきていた。
 もちろんその中には海人さんもいた。そこまでは別にどうということの無いこと。
 しかし、俺はその六人をざっと見て大きく目を見開くことになる。
「大西……」
 そこには傷一つついてない、きれいな服を身にまとった大西がさわやかな笑顔でこっちを見ていた。
「雄介君ちょっといいかね?」
 俺は周りに悟られないようにできるだけ冷静を装って何とかやり過ごそうとする。
「君は墜落に巻き込まれずにパラシュートで脱出したよね」
「そうですよ」
 何も考えずにうなづいてしまったが、なぜこの男はそんなことを聞く?それ以前にどうして俺がパラシュート脱出したことを知っている?いらついて、またつめを噛む。
「なぜパラシュートで脱出したんだい?」
 そう問いただす男の目には疑惑の色が取って見える。しかし本当になんでこの男は俺がパラシュートで脱出したのを知っている。
「答えてくれないかな?」
 いつの間にかそこにあった十四個の瞳がこちらに向けられている。不思議と背筋がぞっとする。まさか俺が実行犯だとばれた?
「答える前に一ついいですか?」
 俺はたまらなくなって口を開く。
「なぜ俺がパラシュートで脱出したのを知っているんです?」
 俺がその質問をした瞬間にその場の空気は凍り付いて沈黙が訪れる。
「なぜってそれは……」
 気まずそうに顔を背けられる。一体なんだって言うんだ。その沈黙の意味は?

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