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プロローグ

「判決を言い渡す」
 凛とした裁判官の声が法廷には響き渡っていた。
「被告人を無期懲役とする」
 その判決は法廷より俺の内側に響いた。
「そ、そんな」
「被告人の犯罪は揺るぎのないものであり、証拠もそろっている」
 そういうと裁判官はペンやら小瓶やらを指してそういった。
「俺はやってない」
 つぶやくように言う。
「今回の犯罪はきわめて悪質で残虐である」
「俺はやってないぞぉ」
 法廷に俺の声が響く。
「被告人静かにしたまえ」
 裁判官が何かを言っていた。
「違う、これは俺じゃない」
 俺は無実を主張しようとして叫ぶ。
「静かにしないか」
 少々裁判官が怒ったように怒鳴る。
「俺じゃないといったら俺じゃないんだ」
 それでも俺は叫びつづけた
バン
「いいかね?君は有罪だ、これは揺るぎのない事実なのだよ。受け止めたまえ」
 完璧に裁判官は怒ってしまっていた。
「そ、そんな」
 俺はがっくりと地面に膝をつき涙をこぼす。
「俺は何も…」
 ふと見上げるとあいつがこちらを笑いながら見下していた。
「あいつがやったんだ」
 俺はにやけていたあいつを指差す。
「あいつが俺の家族を殺したんだ、このことは全部あいつがやったんだ」
 やつはいっそう口元を緩めて笑っている。
「家族のことについては後ほど違う裁判があるから待ちたまえ」
 裁判官はもう聞く耳すら持ってくれない。
「俺は悪くない俺は悪くない」
 あいつは俺が法廷から連れて行かれていくときもずっとこっちをみてにやけていた。
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